「金利のある世界」が到来したら起こる生活の変化 日銀正常化によって、日本はどう変わっていくのか

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前述したように、日銀は0.28%で逆ザヤ、2.75%で債務超過になるというのに、政府(内閣府)は国債の長期金利が3.4%になると予想している。言い換えれば、このシミュレーションがどちらも正しいとすれば、日銀は10年以内に債務超過に陥ることを意味する。

中央銀行が、債務超過になるとはどういうことなのか。当事者である日銀自身が2023年12月に「中央銀行の財務と金融政策運営」(日本銀行企画局)というレポートを発表している。その中で、「過去に中央銀行が債務超過となった事例」を紹介するなど、自らの未来に起こるかもしれない事態を紹介している。

ここでは、債務超過の原因を「自国通貨高によって保有する外貨準備の評価損が直接の原因のケース」と「金融危機や政府の財政難などが原因のケース」に分けて分類し、その影響の違いを示している。

もともと中央銀行が債務超過に陥った場合に、最初に心配されるのが「インフレ」だ。自国通貨高によって、保有外貨が目減りして債務超過に陥った場合はインフレの心配はほとんどない、と同レポートでは指摘している。西ドイツやチェコスロバキア、チリ、タイといった国が、かつて自国通貨高による債務超過に陥っているのだが、どの国も平均インフレ率は2.9%~6.1%の範囲内で、激しいインフレには見舞われていない。

しかし80年代から90年代にかけて、相次いで中央銀行が債務超過に陥った下記の国では、すさまじいインフレに見舞われている。金融危機や財政政策が原因で債務超過に陥ったケースだ。

・ジャマイカ……22.6%(平均インフレ率)
・フィリピン……11.8%(〃)
・ベネズエラ……29.9%(〃)

われわれの生活はどうなってしまうのか

中央銀行というのは、紙幣を発行する銀行を意味する。その銀行が借金を抱えていれば、当然ながらその通貨は安く評価されていく。格付けも下落していく。日銀が債務超過に陥るということは「円安」「インフレ」を連想せざるを得ないわけだ。

結局、そんな事態を防ぐためには、政府は公的資金を投入して日銀の財務健全化を図ろうとする。中央銀行は、政府とは一定の距離をおいて独立性を保たなくてはならないのだが、その独立性が失われることになるかもしれない。

税金は高くなり、年金、医療といった社会保険制度の破綻を心配し、生活はインフレに苦しむ……。国民はインフレにおびえて暮らす発展途上国のような生活を強いられるのかもしれない。いずれにしても、住宅ローンの変動金利高騰といった心配は当面なさそうだ。それ以前に、日銀に頼りきっている政府が財政破綻するのを心配したほうがいいのかもしれない。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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