「3大映画祭制覇」濱口竜介語る"日本映画の課題" 国際的評価をされても大ヒットにつながらず

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――映像作家として作品を作るうえで、世界3大映画祭での栄誉は目指すべきところなのでしょうか。

一概にそうは言えません。ただ、自分が作っているような独立系の映画は、日本の興行のメインストリームであるエンターテインメント大作とは異なります。

そういう小規模な予算の映画が観客の認知や関心を得ることは難しい現状があります。だから、映画祭で評価を受けることは確実にその一助になるとは思います。国際映画祭で話題にならないと職業としてやってはいけないだろうなと、30代前半くらいまでは漠然と思っていました。

世界の映画祭で受賞するためのテクニック

――世界の映画祭で受賞するためのテクニックや、作品の調整などはあるのでしょうか。

30代後半、実際に映画祭に選ばれるようになって、映画祭のプログラマーなどと話す機会を得ると、必ずしも映画祭への「選ばれやすさ」を想定して作品を調整するようなことがなくても、自分自身の価値基準や価値判断をそのまま先鋭化させて作っていけば、国際映画祭の基準にもかなう、ということがわかってきました。要は映画として磨いていくということに尽きます。

濱口竜介 ドライブ・マイ・カー 悪は存在しない
『悪は存在しない』(C)2023 NEOPA / Fictive

――“国際映画祭の基準”にかなうためには、何をやるべきなのでしょうか。

いろいろな映画が選ばれているので、これも一概には言えません。ただ自分のことで言えば、ある程度の数の映画を見て、映画史を学んだ、ということ以外には何もないような気がします。

古典的な映画をできるだけ見て、その美学を身につける。現代は制作条件が古典期とまったく違うわけなので、自分が学んだ映画というものの魅力をどうやったら発揮できるか。そういうことを考えたうえで、具体的な制作へと落とし込んでいく、ということが自分のやってきたことです。

国際映画祭のプログラマーたちと話してわかったことは、彼らは世界中の映画や歴史上の有名な古典は当然見ている、ということです。もちろん彼らはそこから外れたような新しいものも求めていますが、ある程度これまでの映画史を踏まえたものが出てきてほしい、という思いは共通して持っているように思いました。

なので、もし「どうやったら世界の映画祭に選ばれるのか」と問われたら、私個人の体験からは「まず古典映画をできるだけ見る。それで考える」という答えになります。

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