国策ラピダス「補助金1兆円」注ぐ至難技術の成算 535億円投じる「後工程」でブチ上げた開発戦略

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たとえ量産体制を整えたとしても、そこには競合の壁が立ちはだかる。

現在、世界中で開発競争が過熱している高性能なAI半導体に先端パッケージングは必須。それだけに、最大手のTSMCは後工程分野への投資も強化中だ。同社は急ピッチで新工場を建設し製造能力を拡充、エヌビディアなど既存のAI半導体メーカーのみならず新興メーカーなどの需要も吸収し、顧客の囲い込みを進めている。

こうした同業と異なり、ラピダスは少数の顧客相手のビジネスを前提にしている。この差別化戦略は両刃の剣で、工場稼働率と歩留まり向上のハードルが上がる。小池社長が強調するように「従来品に比べて10倍の枚数」が取れても、その後の工程で不良品が大量発生すれば元も子もない。

上客と肩を並べて連携できるか

後工程の開発にはさまざまな素材や装置が使われるため、それらを手がける企業とのすり合わせが欠かせない。後工程を担当するラピダスの折井靖光専務は「技術開発では『JOINT(ジョイント)2』とも連携していく」と話した。

TSMC熊本工場の目と鼻の先に、東京応化工業も工場を構えて連携を深める(記者撮影)

ジョイント2とは、先端パッケージングの共同研究を行うために設立された国内の大手材料・装置メーカーのコンソーシアムだ。

後工程材料に強いレゾナック・ホールディングスを中心に、フォトレジストの東京応化工業や研磨・研削装置のディスコなど世界トップ級のシェアを持つ企業が13社参画している。

高い技術力を持った企業の集まりではあるものの、各社ともに大手半導体メーカーやTSMCなどといった大口顧客を抱えている。もちろん最先端技術の開発優先順位はこうした上客だ。実績のないラピダスがどこまで深く連携できるかがカギになる。

後工程の領域でも、ラピダスが掲げる理想と現実との差は大きい。巨額の補助金を投じる国策半導体企業は、多くの期待と不安を背負いながら2027年の量産化へとひた走る。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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