BM事件で信頼失墜「中古車業界」は変われるか インセンティブ廃止、総額表示など改革の動き

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ただし、こうしたイメージ悪化の実ビジネスへの悪影響は、少なくとも現時点では見られない。

2023年度の中古車登録台数(登録車+軽自動車)は前年度比2.5%増の645万1230台。5年ぶりにプラスとなった。コロナ禍や半導体不足によって落ち込んでいた自動車生産が回復傾向となり新車販売が増加、つれて中古車市場も活気が戻っている。

決算発表が集中する2月に、上場する中古車販売会社に話を聞いて回ると、多くの企業が「ビッグモーター問題による業績影響はほとんどない」という。むしろ最大手だったビッグモーターの弱体化の恩恵を受けている企業もある。

もちろん、足元で業績へのマイナスがないからいいわけではない。ある中古車企業の社長は「業界全体の評判が落ちたことで、当社では新卒も中途もエントリー数が減っている」と危機感をあらわにする。

ネクステはインセンティブ制度を廃止

信頼回復に向けた取り組みも始まっている。例えば、文春砲を浴びたネクステージは昨秋、従業員に対するインセンティブ制度を廃止した。

ビッグモーターで不正が蔓延した背景には、厳しいノルマの設定や高額なインセンティブといった過度な成果主義的報酬体系がある。ビッグモーターほどではないにせよ、「中古車業界は全体的に、数字至上主義の風土がある」(業界関係者)。

ネクステージの浜脇浩次前社長は昨年9月の退任直前に、不正や不適切事案が起きる背景について「営業が一生懸命販売するようにインセンティブで釣っているという捉え方はできる。その一生懸命が強引な販売や買い取りといった悪い方向に出ることもある」と分析、インセンティブ廃止の決断を東洋経済の取材で明かした。

インセンティブ頼みは営業系の会社では多かれ少なかれある。インセンティブという”ニンジン”をぶら下げて営業職員のモチベーションを高めることで、実際に数字が上がるからだ。インセンティブを廃止すれば、不正のリスクが低下する一方、営業力が弱まる懸念がある。

現場で不正をする動機をなくすために、ネクステージはインセンティブを廃止した(記者撮影)

ただ、ネクステージの広田靖治会長兼社長は、「商品ラインナップや車両価格、購入後のアフターの利便性などに優位性がある。インセンティブをなくしたからといって、お客様の数が大きく減ることはない。むしろ、(強引な接客がなくなるので)もっと多くのお客様に来ていただける」と自信を示す。

中古車買い取り大手カーチスホールディングスの長倉統己社長も、個人的な意見と断りつつ、「インセンティブありきのビジネスは断ち切るべきだ」と賛同する。現状の中古車業界では給与全体に占めるインセンティブの割合が高いが、「ベースとなる給与や賞与を上げてインセンティブの比重を極力下げたい」と変革を示唆する。

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