「高齢者アンダークラス化」するミドル期シングル 「ゆるいつながり」で親密圏を形成できるか

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本書の論点をおおざっぱに言うと、(1)ミドル期シングルという集団がどれくらいの規模で存在するか、(2)なぜ、そのような集団が形成されたか、(3)この人たちが高齢化したときに、それを支援するどのような取り組みがあり得るのかの3つである。

「家族を作るな」というイデオロギー

これまで行政は「高齢シングル」に対しては関心を寄せていた。高齢シングルは「低所得や要介護のリスクが高く、社会保障に対して負荷を増大させるおそれ」(前掲書、19頁)があるからだ。でも、ミドル期シングルについては、行政もメディアもまるで無関心だった。

いや、無関心というのではない。むしろ、日本社会では久しく「家族を作るな」というイデオロギーが支配的だった。本書には言及されていないが、私の知る限り少なくとも1980~1990年代においてはシングルであることは、都市生活者につよく勧奨された生き方だった。

糸井重里は1989年に『家族解散』という小説で中産階級のある一家が離散する過程を活写した。一人ひとりが「自分らしく」生きようとしたせいで「家族解散」に至る物語である。でも、これは悲劇ではなかった。何より「家族解散」は市場に好感された。なにしろ、家族が解散すれば、不動産も、家電製品も、自動車も、それまで一つで済んでいたものが人数分要ることになるからである。家族解散は「市場のビッグバン」をもたらした。だから、「家族を作るな」というのは資本主義からの強い要請でもあったのである。

そういう時代を生きた人たちが家族形成に強いインセンティブを感じなくなったということはあって当然だと思う。人口動態がそれを示している。

「全国のシングルの総数は、1980年の711万人から2000年の1291万人をへて2020年には2115万人にまで増加しました。40年間で2.98倍になったということです。」(前掲書、45頁)。

2115万人のうち男が1094万人、女が1021万人。男では、未婚・ミドル期が29.8%、未婚・若年期が29.6%。女では死別・高齢期が32.4%、未婚・若年期が23.3%、未婚・ミドル期が16.9%(前掲書、47頁)。ミドル期シングルは1980年に35万人、2000年に156万人、2020年に326万人。40年間で約10倍に増えた勘定になる(前掲書、21頁)。離婚してシングルになる人たちもいる。男は1980年に17万人、2000年に59万人、2020年に93万人。女は25万人、48万人、77万人。これも急増している(前掲書、21頁)。

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