「SEX AND THE CITY」が今さら批判され始めた訳 1998年放送の第1話でドナルド・トランプに言及

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それらの問題点については、今さら言われるまでもなく、製作者たちは認識済みだ。だから、2021年に配信開始し続編『AND JUST LIKE THAT…/セックス・アンド・ザ・シティ新章』では、ミランダが自分の依存症に気づき、酒をすっぱりやめるという展開が用意されている。

ミランダの新たな恋人には実生活でもノンバイナリーであるコメディアンをキャストし、「白すぎる」問題を是正すべく、黒人のキャラクターも複数出してきた。それはそれで、「意図が見え見え」とか、「出してくるやり方が不自然」などと長年のファンから批判されたのだが、2021年のハリウッドにおいては、それをやらないという選択肢はない。やっても、やらなくても批判されるのは辛いが、それが今の世の中なのだ。

だが、修正のすべがなく、長年のファンの心におそらくもっと引っかかるのは、出演者たちのリアルライフがわかってしまっていることだろう。ドラマの中で4人は大親友を演じたが、カメラの裏でパーカーとキャトラルの仲が悪かったのは、今や世界中が知るところだ。

4人がアトランティック・シティに行く回のロケで、プロデューサーでもあるパーカーは、ニクソンとデイヴィスを自分と同じところに宿泊させたが、キャトラルについては放置し、彼女は自分でホテルを予約しなければならなかったという裏話も伝えられている。それを知りつつ、アトランティック・シティを楽しんでいるドラマの4人を見るのは、なんとも複雑だ。

AND JUST LIKE THAT…
『AND JUST LIKE THAT…』のワンシーン©Craig Blankenhorn/Max

出演者の性的行為の強要疑惑が浮上

そして、クリス・ノース。『AND JUST LIKE THAT…』がちょうど放映になった頃に、彼が過去に女性に性的行為を強要したと暴露されたのだ(本人は被害者女性の主張を否定)。ミスター・ビッグはこの続編の初回で死ぬので、その後のストーリーへの影響はなかったものの、『SEX AND THE CITY』にはもちろん彼がたっぷり出てくる。

とは言っても、このドラマが生まれて、もはや四半世紀だ。長い人生の中では、職場の同僚に暗い秘密があったとか、お互いとの関係がうまくいかなかったとかいったことは、誰にでもある。ドラマの中に出てくる昔の価値観や理解の欠如も、当時の自分たちを振り返れば納得だろう。実際、当時は誰も問題視しなかったのだ。

このドラマに思い入れのない若い世代には、たしかに「向いていない」のかもしれない。だが、リアルタイムで見てきた世代にとって、当時すべての意味で画期的だった大傑作であることに変わりはない。長年の大ファンのひとりである筆者は、昔ならではの問題点には「ああ、あの頃だからしかたないな」と苦笑しながら、これから製作される『AND JUST LIKE THAT…』第3シーズンが正しいことをやり、より楽しいものになるよう、応援している。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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