AIで「一般的な労働者の給料が上がる」ロジック 労働者側の経済学者が説く逆説の「AI楽観論」

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その意味でAIは雇用に死をもたらすものではなく、スキルがあまりない人にもより付加価値の高い仕事を可能にする「労働者補完テクノロジー」になると言う。

職場における生成AIについての初期の研究は、そうした可能性を示唆するものだ。オーターが指導したMITの大学院生2人によるある研究プロジェクトでは、短いリポートやニュースリリースの執筆などの仕事をオフィスの専門職に割り当てた。

AIは全員の生産性を向上させたが、最大の恩恵を受けたのはスキルが低く経験の浅い人たちだった。コールセンター従業員やコンピュータープログラマーを対象にした後の研究でも、同様のパターンが見られた。

「上げ潮」をつぶす暗黒のフォース

しかし、たとえAIが経験の浅い労働者の生産性を最大に向上させるものだったとしても、彼らがより高い所得やより良いキャリアパスといった恩恵を得られるとは限らない。そうしたものは、企業の行動、労働者の交渉力、政策にも左右されるからだ。

MITの経済学者で時折オーターと共同研究を行っているダロン・アセモグルは、オーターのビジョンは可能性のある道筋の1つではあるが、必ずしも最も可能性の高いものではないと述べた。アセモグルによれば、歴史は「上げ潮がすべての船を持ち上げる」という楽観主義者たちの側にあったわけではないと指摘する。

「ほかのデジタル技術でも同じような主張があったが、そうはならなかった」とアセモグル。

オーターは課題があることを認めている。「とはいえ、前向きな結果を想像し、議論を促し、より良い未来に備えることには価値があると思う」とオーターは言う。「このテクノロジーはツールであり、それをどう使うかは私たち次第だ」。

(執筆:Steve Lohr記者)
(C)2024 The New York Times

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