AIで「一般的な労働者の給料が上がる」ロジック 労働者側の経済学者が説く逆説の「AI楽観論」

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大卒でない人を含む、より多くの人々が一段と付加価値の高い仕事をこなせるようになれば、彼らの所得は上がり、より多くの労働者が中産階級に引き上げられるというロジックだ。

「アメリカ労働者のアカデミックな代弁者」とかつて『エコノミスト』誌が評したオーターは、ソフトウェア開発者としてキャリアをスタート。コンピューター教育の非営利団体のリーダーを経て経済学者となり、テクノロジーとグローバリゼーションが労働者と賃金に与える影響を数十年にわたって研究してきた。

現在59歳のオーターは、2003年に過去30年間で大卒労働者に生じた需要シフトの60%はコンピューター化に起因すると結論づけた影響力ある研究の著者だ。その後の研究では、賃金を二極化させたり雇用の伸びを低賃金サービス業に偏らせたりする動きに対し、テクノロジーが果たしている役割を検証した。

経済学者の間では雇用破壊の悲観論が主流

ほかの経済学者たちはオーターの最新の論文を、推測の域を出るものではないが刺激的な思考実験だと受け止めている。

「私はデビッド・オーターの研究に大いに感服している者だが、彼が今回掲げた仮説は可能性のあるシナリオの1つにすぎない」。カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールの教授で、クリントン政権時代に大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長を務めたこともあるローラ・タイソンは、「AIが生産性を向上させるという点については広く合意が得られているが、それが賃金や雇用にどう反映されるかは非常に不透明だ」と語った。

そうした不透明感は通常、悲観論に向かう。シリコンバレーの破滅論者だけでなく、主流の経済学者たちも、コールセンターの従業員からソフトウェア開発者に至るまで、多くの雇用がリスクにさらされると予測している。

ゴールドマン・サックスは昨年のリポートで、生成AIは世界全体で3億人分のフルタイム雇用に相当する活動を自動化する可能性があると結論づけた。

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