10年後「生き残る仕事」「なくなる仕事」の境界線 今後においてもAIにできないことは何か?

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いっぽうで、「筋肉質の男性が嵐のなかで敵をやっつけている場面を描いて」などと具体的に指示していけば、かなり要求に近いものを出してくるでしょう。

いずれにしても、AI自体に書きたい、描きたいという欲求はなく、過去に学習したもののなかから「それっぽいもの」を持ってきてつなげることに長けているだけなのです。

もっとも、AIにも創造に近いことができるようになる可能性も十分にあります。

なぜなら、人間が作る創造物においても、たとえばある作家が、あるストーリーと別のストーリーを組み合わせ、さらに別のストーリーの要素を加えて「いいとこ取り」した作品に対して、新しい作風として称賛が与えられることがあるからです。

こうしたものまで創造と呼ぶのであれば、おそらくそれはAIにも可能なのだと思います。

「属人化こそ勝ち組」の時代が到来

では、どんな人であれば職を失いにくいといえるのでしょうか。

キーワードは「属人化」です。

10年後のハローワーク これからなくなる仕事、伸びる仕事、なくなっても残る人
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「その人」だから価値があると感じているものは、AIには入り込めない領域なのです。

属人化している仕事は、思った以上にたくさんあります。アスリートやYouTuberなどの配信者はわかりやすい例ですが、そのほかでも理由はわからないけれどとてもおいしいチャーハンを作る町中華や、そこで腕を振るう親父さんの代わりは、AIにはできないでしょう。

これまで善とされてきた「標準化」「マニュアル化」はAIが担い、悪とされてきた「属人化」こそが私たちが生き残っていく術となります。

誰もがしている「勉強」で秀でることの価値が、相対的に減っていきます。それは知能が自動化、機械化されれば、努力の必要すらなく、しかも人がするより高いレベルで実現できてしまうからです。

問題は、大企業や組織力の高い会社に入ったことで、仕組化の歯車のひとつとなって、属人化を排除する組織の文化や風土に慣れてしまった人が、

「自分は本当は何をしたいのか」

「なぜそれをしたいのか」

こういったことを明確にして、最後は自分の意思で決められるかどうかです。

AI時代の到来が本当に問うているのは、「あなたならどうするのか」ということだと思います。

それを考えるのは、いまがいい機会というよりも、AIの進歩スピードを考えると、ラストチャンスなのです。

川村 秀憲 人工知能研究者、北海道大学大学院情報科学研究院教授、博士(工学)

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かわむら ひでのり / Hidenori Kawamura

1973年、北海道に生まれる。小学生時代からプログラムを書きはじめ、人工知能に興味を抱くようになる。同研究院で調和系工学研究室を主宰し、2017年9月より「AI一茶くん」の開発をスタートさせる。ニューラルネットワーク、ディープラーニング、機械学習、ロボティクスなどの研究を続けながら、ベンチャー企業との連携も積極的に進めている。
著書に『ChatGPTの先に待っている世界』(dZERO)、『人工知能が俳句を詠む』(共著、オーム社)、『AI研究者と俳人 人はなぜ俳句を詠むのか』(共著、dZERO)、監訳書に『人工知能 グラフィックヒストリー』(ニュートンプレス)などがある。

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