80年代、東大駒場に流れていた自由な風の正体 異色の教養シリーズ「欲望の資本主義」の原点

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入局の際の同期の自己紹介の場で、多くが「NHK特集」や「大河ドラマ」などの志望を口にする中、「ラジオ第2」をあげたのは僕だけだった記憶があります。1980年代の「ラジオ第2」には、さまざまな分野の最前線を走る人々にフラットに話を聴くスタイルの「教養番組」があったのです。

当時「ニューアカデミズムの旗手」と謳われた浅田彰さんや、『朝日ジャーナル』の名物編集長でもあったジャーナリストの筑紫哲也さんといった各ジャンルで時代と対峙する問題意識を持つ人々にディレクター自らがインタビュアーとなって話してもらう、そんなシンプルな番組を放送していて、そんな仕事のスタイルに憧れていました。

収録機を担いで一人インタビューに出かけ、ハサミ片手にテープをつぎはぎし自分で編集し、放送にこぎつける。そうしたシンプルな過程こそリアリティを感じられるというか、制作の過程で考えることができる日々に勝手に可能性を感じていた就活生でした。結果的には、ラジオは新人時代に少しだけ経験し、基本テレビ中心の日々となりましたが、今でも僕が着想する番組企画は実はラジオ的だなと思うことがよくあります。

ジャンルを横断する思考で自らの「フレーム」を作る

堀内:それは意外ですね。最初から映像の仕事を志してNHKに入社されたわけではないのですね。ラジオ志望から、どんなことがきっかけとなって、今の仕事へとつながっているのでしょう?

丸山:ええ。でも、ラジオでもテレビでも、その本質的なところは変わらないことにも気づきました。やはり取材が大事で、音声にせよ映像にせよ、想像力を動員しながら断片を構成し、一つの形へと構築していく、表現の形へと整えていく制作の過程には、発見と思索の醍醐味があります。

そして同時に、映像はその「フレーム」の作り方により、見る人の視点により無数の広がりを持つことの難しさと面白さにあらためて目覚めました。光源は一つであっても、そこから生まれるイメージは広がり、乱反射します。作り手が思いもしなかった視点を見る方が感じ取ってくれる、これ自体が映像を通しての対話、発見の過程です。

ある視点からの発見の大切さに目覚めた一つのきっかけは、浪人時代だった1981年、『中央公論』に掲載された、当時京大人文研助手の浅田彰さんの文章をたまたま読んだことにあります。

『構造と力』の「序に代えて」となっている「千の否のあと大学の可能性を問う」といったシニカルなサブタイトルがついている文章でしたが、時代状況の変化を俯瞰しつつ、学問、大学、社会、そして知のあり方の変化についての一つの見取り図を提示するようなエッセイでした。

これも今思えば、1970年代から1980年代へと、工業化社会からいよいよポスト産業資本主義への転換が本格的に社会の構造を変え人々の意識を変えることへの洞察でもあったわけですが、自らの居場所を見つけられない思いを抱えていた身には、その感覚、表現のスタイルが非常に興味深く、刺さりました。

著者紹介を見ると専攻は「経済学史」と「数理経済学」とあったんですね。経済という学問を入り口とすれば、こんなふうに縦横無尽にジャンルを横断して知の世界を疾走できるのかと、経済学部の選択にもつながりました。

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