東京都・宮坂副知事が見た「自治体DX」理想と現実 都の外郭団体で未曾有のシステム大移動を支援

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――そもそも、システムを標準化する利点をどう考えていますか。

「標準化」は、システムが複数でもデータが互換性を持つ、ということだ。代表的な標準化はインターネットで、世界中で標準化されているから世界中でつながる。標準化すれば標準化するほど、いろんなものがつながるので、行政の効率化を進める意味でも、やったほうがいい。

一方、よく話がごっちゃになるのが、「標準化」と「共通化」の話だ。「共通化」は「1個のシステムをみんなで使おう」といった話で、これもこれでやればいい。

これまで62区市町村同士で議論することなく、隣で何をやっているかわからなかったが、今回の話をきっかけに共通化の動きも出ている。例えば、AI議事録はどの自治体でも使うが、みんなで1個のものを決めて使ったほうが安くなるかもしれないし、得意な職員が隣の町に教えにいくこともできるだろう。

それぞれの自治体が閉じて考えるのではなく、もっと情シス同士でつながって共同でできることは、いろいろとやるべきだと思う。

国産クラウドは「大事にすべき」

――国は、システム標準化を進める意義として、特定ベンダーに自治体が依存する「ベンダーロックイン」からの脱却も強調してきました。

「ベンダーロックイン」は定義が難しくて、あまり好きではない言葉だ。システムを違うものに切り替えるのに異常にお金がかかったりするのはともかく、小さな自治体が特定の1社にお願いするのは、ある意味で合理的な判断だ。

情シスがいっぱいいれば、10社くらいのベンダーをまとめて管理・監督できると思うが、1人しかいなかったら、僕が担当でも1社に「あとはお願い」ってなると思う。それは1つの知恵でもあり、何のロックインがいけないのかという点はもう少し議論したほうがいいのではないか。

――標準化した自治体のシステムを稼働させる政府の「ガバメントクラウド」の提供事業者として、昨年に国内企業として初めてさくらインターネットが条件付きで採択されました。ただ、AWS(アマゾン ウェブ サービス)などの強力な外資勢がひしめく中、自治体が国産クラウドの導入を進めるか疑問視する声もあります。

国産には頑張ってほしいし、大事にしたほうがいい。さくらは僕もよく知る会社で、すごくリスペクトしている。

たしかにアメリカの会社は、設備投資額が全然違う。日本は100億円投資したらニュースになるが、向こうは兆円単位でやる。ボクシングで例えたら階級が違う感じなので、同じ速度で同じ成長を求めて勝負するのは少し過酷だ。

それでもさくらのように、ハードウェアに近い領域で仕事をするエンジニアがいなくなると、技術の深い部分がわらなくなって、日本は「デジタル小作人」になりかねない。「海外でいい」と言った瞬間に、その技術は日本からなくなる可能性が高いし、10年後にもう1回やりたいと思ってもできない。「根っこ」を自分たちで作れる技術者を国は重視すべきだろう。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞東京本社の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、ITベンダー業界を中心に取材。情報通信、メディア、都市といったテーマに関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んでいた。

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