JT総会で株主が問うた「ロシア事業継続」の難題 ロシアとウクライナに工場を持ち事業を継続中

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アナリストも、以前から決算説明会で、この点について幾度も質問してきた。事業継続を説明するJTに対し「具体的にどんな出来事、トリガーがあれば撤退するのか」と説明を求める場面もあった。

ロシアからはマクドナルドやスターバックスなど、世界的な企業が撤退している。日本企業もトヨタ自動車などが撤退。ユニクロも全店営業停止状態(HPでは2023年8月末以降、店舗数はゼロの記載)だ。

たばこ業界では、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)が撤退。フィリップ モリス インターナショナル(PMI)も撤退の意向を表明したがまだ実現できておらず、JTIとともに戦争支援者のリストに加えられている。

JTは明確な撤退の意向について示しておらず「製造を一時的に停止する可能性もある」との声明にとどまっている。新規投資やマーケティングは停止した状態だ。

財務大臣が株式37.57%を保有

撤退について明確な基準を説明できない背景には、複雑な事情がある。寺畠社長が「社員、顧客、株主、社会からの要請のバランス」と語ったように、そもそも4000人のロシア社員の雇用を打ち切れるのか。急激な利益や配当の減少を投資家は許容できるのか。そして、日々人命が失われる中での事業継続はモラルとして許されるのか、といった複数の面から企業の責任が問われている。

PMIなど同業他社も撤退を進めるならば、仮に事業を売却するとしても売却先はロシア企業しかない。まず事業規模に見合った正当な売却額にはならないだろう。この点でも株主への丁寧な説明が必要になってくる。

そもそも、JTは民間企業でも特殊な会社。株式37.57%を保有する筆頭株主は財務大臣で、2023年はJTから単純合算で1293億円の配当金を受け取ったことになる。重要な決断を、経営陣だけで下すことはないだろう。

ロシアのウクライナ侵攻から2年が経過し、戦争は長期化している。さまざまに絡み合う要素の中で、何を優先すべきなのか。今後もJTは事業継続に関して、厳しく説明を求められそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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