「適切にもほどがある」若者が入社後に泣いたワケ ビジネスには「ビジネスの適切な価値観」がある

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この若者は本当に適切だった。まさに「適切にもほどがある」ぐらい、そつがない言動をした。しかし、適切だったのは「入社前までの世界」だけだったとも言えた。

人の顔色をうかがい、うまく立ち回ることができても、それだけで仕事がこなせるほど甘い世界ではない。特に任されたプロジェクトは、その色が強かった。新しい事業を起ち上げるには、まるく収める必要がないときもあるのだ。

覚悟をもって発言し、信念を貫くことも重要だ。若いからこそ、チャレンジングな感性も求められた。それがストレスだったのかもしれない。

「七転八倒の経験」が人を強くする

社会人になるまではバランスが取れていたからといって、社会に出てからも同じようにバランスよくやっていけるかというと、そうとも限らない。

いきなり一輪車に乗って、すぐにピタリとバランスが取れるようにできる人は稀だろう。しばらくは七転八倒するに違いないのだ。たとえできたとしても、その姿勢をずっと保つのは難しい。環境が変化することで、再び転ぶことはある。

『不適切にもほどがある!』の主人公も、多少のことがあっても心が折れたりはしない。さんざんバランスを崩して転んだせいで、転ぶことに慣れ、そのうちにストレス耐性がアップしたからではないか。

だからこの若者の心はビックリしてしまったのかもしれない。今までは「適切にもほどがある」言動をとれていたがゆえに、転ぶことに慣れていなかったからだろう。

さて、この若者はその後どうなったか。後日談を書いて終わろう。

この若者は復帰してから営業企画部に異動して、元気に仕事をしているという。展示会やウェビナーなど、イベント企画に関わっているそうだ。新規事業の起ち上げという不確実性の高い仕事よりも、適切に仕事をすれば、それなりにリターンが見込める仕事のほうが合っている。前の上司がそう判断したようだ。

「自信がついたら、また新事業プロジェクトに戻りたいです」

本人はこう発言しているという。今後はレジリエンス(回復力・復元力)が身についたら、きっと「適切にもほどがある」営業になってくれるに違いない。

横山 信弘 経営コラムニスト

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よこやま のぶひろ / Nobuhiro Yokoyama

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。『絶対達成マインドのつくり方』『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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