「相手によって態度を変える人」のみにくい心理 "豹変"を恥ずかしいとも思わない

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とはいえ、そういうことも許容されるのが世の常だ。上層部としては、稼ぎ頭に辞められたら困るというのが本音だろう。それほど稼げるわけでもない下っ端が何人メンタルを病もうが、退職しようが、大した痛手ではなく、代わりはいくらでもいるので、また雇えばいいくらいに上層部は思っている可能性が高い。上層部の顔色を常にうかがっている上司ほど、こうした認識を敏感に感じ取るので、さらに特権意識に拍車がかかる。

想像力の欠如

特権意識が強い上司ほど、自分の暴言や罵倒で部下がどれほど傷つき、つらい思いをするかに想像力を働かせることができない。いや、それどころか想像してみようとさえしない。想像力が欠如しているからこそ、感情に任せて暴言を吐き、罵倒し続けるのだろう。

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もっとも、想像力の欠如を無自覚に露呈させるのは“下”に対してだけである。逆に、“上”に対しては、自分の言動がどう受け止められるか過剰ともいえるほど警戒し、不快感や反感をかき立てないよう慎重にふるまう。“上”からどう見られるかが最大の判断基準になっているからであり、そのおかげか“上”から気に入られ出世することも少なくない。

ところが、このような涙ぐましい努力が想定外の事態を招くこともある。センサーの感度を極力上げて、“上”にいい印象を与えられるように頑張っていたのに、その“上”が何らかの事情で退社したり、権力を失ったりする場合だ。そうなると、それまでの気遣いがどこにいったのかと首を傾げたくなるほど、ぞんざいな対応をするようになる。

よく聞くのは、ポストオフや定年後再雇用になった元上司に対して、一切話しかけない、場合によっては挨拶も返さない元部下がいるという話だ。元部下の豹変に悩んで落ち込み、眠れなくなった定年後再雇用の男性が私の外来を受診して、「管理職ではなくなり、何の権限もなくなった奴は無価値だと向こうは思っているから、ぞんざいに扱うのでしょうか」と尋ねたこともある。

聞けば、この男性が上司として人事権を握っていた頃は、挨拶さえしなくなった元部下は非常に従順で、盛んに媚びへつらっていたそうだ。しかも、この男性の定年後その後釜に座ったという。

この元部下のように、話しても挨拶しても一文の得にもならないと思えば平気で無視する人はどこにでもいる。根底に潜んでいるのは損得勘定であり、相手の地位や役職を見て行動し、平気で態度を変える。しかも、それを恥ずかしいとも、後ろめたいとも思わない。

片田 珠美 精神科医

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かただ たまみ / Tamami Katada

広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。2003年度~2016年度、京都大学非常勤講師。臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。著書に『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『賢く「言い返す」技術』(三笠書房)、『他人をコントロールせずにはいられない人』(朝日新書)など多数。

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