”復活”日本−−日中韓・造船三国志【中】

拡大
縮小

長く忘れ去られていた造船産業が“沸騰”している。空前の受注を積み上げ、韓国・中国は造船能力の拡大に猛ダッシュ。が、独り日本は動かない。“最強”のコスト力を回復した余裕か、トラウマの呪縛か。大ブームの“向こう側”の海図は見えない。

(週刊東洋経済2月2日号より)

(【上】より続く)
 昨年末、佐世保重工業の設備は経済産業省から「産業遺産」に指定された。ドックは海軍工廠以来の代物だし、250トンクレーンは大正時代に導入した英国製だ。「遺産」をだましだまし使いながら、同社の07年9月中間期の営業利益率は12・2%。ピカピカの最新鋭設備で固めたサムスンの営業利益率5・2%(07年第3四半期)をはるかに上回る。住友重機械の船舶部門に至っては18%という数字をたたき出した。

日本の強さの秘密は三つある。

第1は、モノ作りの「選択と集中」だ。もはや、日本のお家芸は高付加価値船ではない。日本が選んだのは、バルカー(バラ積み貨物船)や中型タンカーだ。とりわけ、「バカ・バルカー」と称され、新興造船所の“入門編”とされるバルカーが全生産量の6割を占める。それも、仕様を統一した「標準船」を連続建造する。もともと、バルカーは構造が単純なうえ、「標準船」なら基本設計は同じ。手間が二重に省け、ドックの回転率も生産性も向上する。

LNG船・VLCCも手掛ける“総合デパート”の三井造船でも、独自開発の標準船「56BC」(5・6万トンのバルカー)が累計120隻を受注し、記録的なヒットとなった。「高付加価値船とは」と岩崎民義常務が言う。「利益をもたらす船のこと。標準船が“安かろう悪かろう”と言われたのは昔話。世界の顧客のニーズを総合し、高いレベルで統一する。これが三井のブランド戦略」。

秘密の第2は、要素価格の絶対的な安さだ。まず厚板価格。韓国勢は厚板を国内で賄えず、スポット価格で輸入せねばならない。需給逼迫下、日本勢のヒモ付き価格に比べスポット価格は1~2割高い。船舶は材料費率が7割だから、この差は大きい。

賃金も、今や韓国のほうが高い。韓国は毎年、4~7%の賃上げを実施し、デフレ下の日本はほぼ横ばい。「97年ごろは韓国は日本の6~7割の水準だったが、それから向こうは倍増。ウォン高もあり、大手の初任給も韓国が上」が日本側の実感だ。

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