加速主義が生み出す「頭でっかちな認知エリート」 ナショナリズムがインテリたちに不人気な理由

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:ある元県知事のような話も、最近は多いですよね。九州でも災害でローカル線が寸断されると、「もう復旧するのはやめよう」というのが普通になってきています。

古川:北海道は完全にそうですよ。むしろ本当はずっと廃線にしたいと思っていたところに、都合よく災害が起こってくれたから、これ幸いと放置している感じがしますね。

:ですよね。水道民営化でも今後はおそらくそうなるでしょう。水道管が破裂したら、「もう水道管直すのやめようぜ。田舎は捨ててコンパクトシティにしようぜ」みたいな感じで。

人間が頭でっかちになってしまったのと同じで、社会も、大都市だけがある程度栄えて、それ以外は荒野が漠々と広がる、みたいな感じになりそうですね。

迅速化のあげくオカルトに走る「覚醒存在」

中野:認知エリートって、本当に問題だらけだと思うんですよ。まず、彼らって頭がいいと思いがちだけど、実はそうでもないんです。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『小林秀雄の政治学』(文春新書)などがある(撮影:尾形文繁)

なぜなら、彼らはデジタルの0と1で処理速度を上げたがるんですけど、それって結局、複雑なことを考えずに、単純化して考えるほうが速いってこと。だから、官僚主義的になっちゃうんですよ。マックス・ウェーバーが言ったように、官僚制は問題を型にはめて処理するわけですから、事務処理スピードは迅速ですが、結局は定型的な思考になって、複雑な議論からは逃げてしまう。だから、頭は大きいけど、中身は空っぽ、ってことになるんです。

もう一つの問題は、認知エリートというのは、シュペングラーの用語で言えば「覚醒存在」と言って、頭でっかちでバランスが悪い。農業などをやって地に足がついている「現存在」とは違う。だから、シュペングラーによると、「覚醒存在」は、そのバランスを取るために、格闘技などのスポーツに夢中になるらしいです。シリコンバレーの連中みたいに、オカルトやオーガニック、民間療法にハマる傾向もあるが、それも同じことかもしれない。なんか、認知エリートの世界だけでは満足できなくて、超合理主義から一転、超自然的なものに走るんですよ(笑)。

佐藤:これは『新自由主義と脱成長をもうやめる』でアメリカを例に挙げて論じたことですが、近代の根底にあるのは「現実は自分の主観的認識に応じて、いくらでも作り変えることができるはずだ」という信念なんですよ。

社会や国家を巨大な人体に見立てる「ボディ・ポリティック」の概念を踏まえて言えば、現在の社会は脳と神経だけが異常に過敏になって、残りの肉体が壊死しはじめている状態だと思います。反射的な情報処理は素早いが、だからこそすべてに実体がない。その空虚感を埋め合わせるべく、スポーツやオカルトにハマるのでしょう。

中野:そう、反射的になっているんです。

次ページ「覚醒存在」がもたらす「文明の没落」
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