西友、脱「ウォルマート」システム全面刷新の裏側 スーパーでは異例、わずか3年で全面刷新を断行

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ただこれまでは、データを十分生かし切れていなかった。執行役員の武田正樹経営企画本部長は、「売れ筋商品の好調要因や特定店舗の売り上げが振るわない理由をデータから分析しようとしても、レポート作成だけで2週間程度かかるのが常だった」と明かす。

その原因こそが既存システムの複雑さだった。ウォルマートのシステムは世界最新鋭とはいえ、ビジネスモデルや市場環境が大きく異なる日本のスーパーマーケットには必ずしも最適化されていない。

そのため西友はアメリカ製の巨大な基盤に、自社開発の機能を後付けして対応。それによってシステム全体が扱いにくくなっていた。データも一元管理されておらず、いざ活用しようとしてもデータを集めるだけで高度な知識や手間が求められ、営業や商品の施策に落とし込むまで時間がかかっていた。

今回の刷新では日系ベンダーとゼロから設計開発した。システムが簡素化されたことで「仮説設定から即日でデータ検証できるようになり、これからはPDCAを加速できる」(武田氏)。

目先に控えるのは品ぞろえの改善だ。従来、店舗の品ぞろえは売り場面積に応じて決定されていた。しかし立地や周辺の人口構成によって、来店客のうちシニア層が7割を占める店もあれば、シニア層は1割程度で半数を30代以下が占める店舗もある。ウォルマート式のシステムでは棚割を変更するだけでも複雑なプロセスを経る必要があったが、これからは細かく実験、検証を行い、個店ごとに最適な品ぞろえを目指す。

発注業務についても効率化が可能だ。複雑にシステムが絡み合った旧来の基盤では「AIの需要予測の『くせ』がシステムによって異なり、違う数字が提示されることが多かった」(荒木氏)ため、最終的な発注量は店舗責任者の感覚に頼らざるをえなかった。今後は基盤を統一したことで、発注業務の精度向上や省人化が期待できる。

今後2年で店舗や楽天のデータをフル活用

しかしいずれも、スーパーにとって当たり前のことができるようになったに過ぎない。同社は中計で業界トップの営業利益を掲げているが、直近で公表されている営業利益は2022年12月期で242億円。収益性に定評のあるオーケー(2023年3月期290億円)や、ヤオコー(同262億円)などには見劣りする。

ただ裏を返せば、強みである全国の店舗網や楽天会員基盤から得られるデータをいかせる土壌が整ったともいえるだろう。「IT基盤の整備は中計の7合目。残る2年、これを使って頂上まで駆け上がっていく」(荒木氏)。DXチームの3年間の奮闘をマーケティング、商品開発の変革につなげられるか。西友の挑戦は続く。

冨永 望 東洋経済 記者

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とみなが のぞむ / Nozomu Tominaga

小売業界を担当。大学時代はゼミに入らず、地元密着型の居酒屋と食堂のアルバイトに精を出す。好きな物はパクチーと芋焼酎。

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