花山天皇も驚いた「藤原道長」の豪胆すぎる性格 青年時代から兄たちよりも数段優れていた?

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道隆は、右衛門の陣まで進むことができましたが、宴の松原の辺りで、得体の知れない声が聞こえてきたので、それ以上、進むことができなくなり、撤退します。

道兼は、ブルブル震えつつ、仁寿殿の東面まで来たのはよいものの、そこで軒と同じくらいの背丈の人がいるように見えたので(わが身が無事であればこそ、帝のご命令もお受けできるだろう)と思い、引き返してきました。2人の退却を、花山天皇は扇をたたいて、お笑いになりました。

ところが、道長だけが、かなり時間が経っても、戻ってきません。どうしたのだろうと皆が思う頃になって、やっと帰ってきたのです。しかも、何でもない様子でした。

花山天皇は「どうしたのだ」とお尋ねになります。すると、道長は落ち着いた様子で、ある物を差し出します。「これは何か」と花山天皇が重ねてお尋ねになると、道長は「何も持たないで帰って来たならば、証拠がないと思ったので、高御座の南側の柱の下の所を削ってきました」と。

道長の勇気が証明された

花山天皇は、その答えを聞き、驚かれます。道隆や道兼の顔色はまだすぐれないような状況でした。それであるのに、この道長の振る舞い。道隆や道兼は、どういう訳か、無言で控えていました。

花山天皇は、道長の言動が確かなものか疑わしいと思われたのか、「蔵人に命じて、柱の削り屑をもとの所にあてがってみよ」と翌朝、お命じになります。

蔵人が削り屑を持って行って押しつけてみたところ、ぴったりと当てはまりました。道長の勇気が証明されたのです。

この逸話は、道長20歳の頃のものとも言われています。しかし、これらの逸話が、本当にあったことかどうかは、ほかに証拠史料がないのでわかりません。

後に大きな出世を果たした道長。そんな道長は、青年時代から兄たちより、数段優れていたと言いたいがために、誰かが創作した話かもしれません。

(主要参考・引用文献一覧)
・清水好子『紫式部』(岩波書店、1973)
・今井源衛『紫式部』(吉川弘文館、1985)
・朧谷寿『藤原道長』(ミネルヴァ書房、2007)
・紫式部著、山本淳子翻訳『紫式部日記』(角川学芸出版、2010)
・倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社、2023)

濱田 浩一郎 歴史学者、作家、評論家

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はまだ こういちろう / Koichiro Hamada

1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『あの名将たちの狂気の謎』(KADOKAWA)、『北条義時』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)など著書多数

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