役所も黙認か「貧困ビジネス業者」驚きの手口 通帳とマイナンバーカードを取り上げられた

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生活保護費の財源には限りがある。本当に税金を節約するつもりなら、保護費を搾取し、利用者の自立を阻む貧困ビジネス業者を牽制したほうがよほど効果があるのではないか。現行の法制度の下でも、行政ができることはあるはずだ。

ミキオさんは生活保護制度のことも、不当解雇のことも、最低賃金の仕組みも知らないと言った。そして「もう少し自分に知識があれば」とうなだれた。

だまされる側が悪いのか

世間はミキオさんが貧困ビジネス業者にだまされたのは、自己責任だというだろうか。私はそうは思わない。自分の家族や友人であれば、好きに説教すればよい。しかし、社会的にはだまされる側より、法律を犯してだます側のほうが圧倒的に悪い。

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貧困ビジネスの問題を考えるうえで、個人のいたらなさをあげつらう行為は、業者の悪質さから目を背けさせるだけでなく、告発しようとする被害者を委縮させる。結果的に業者を利するだけだ。だまされる人がいなくなれば、貧困ビジネスも悪質企業もなくなるという意見は一理あるかもしれないが、それは義務教育や社会人教育のあり方という別の話である。

最近、ミキオさんは仕事が決まった。この間もハローワークには通い続け、職種や正社員にこだわらず探したつもりだが、安定した収入や社会保険があることなどを条件にすると、面接を受けても不採用が続いた。しかし、ついにホテルのベッドメイクの仕事が決まったという。

「こんなところ、たとえ家賃を二重払いすることになっても、今度こそ出ます」。ミキオさんがいつになく強い口調で言った。しばらく卵かけご飯は食べられそうにない。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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