日本に足りないのは「ローカル」エリートだ! グローバル「以前」の"エリート"の条件

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教育が普及し、発展途上とは言えない日本で、“社会を発展させる人”が「エリート」と言われるのかはわからない。しかし、仮に彼らを現代日本における「エリート」と呼び、その育成を考えるなら、彼らには自発的に「問題意識」を持つ力が必ず求められる。「問題意識」のないところに学ぶ意識を高めても、骨のないところに肉を付けるようなものだ。

日本の問題は「ひっそり」と進んでいく?

自分を省みるなら、私たちはどれだけの「問題意識」を持っているだろうか? 以前、友人の新聞記者が地方における子供の貧困問題に対する取材をし、まとめていた(宮崎日日新聞社「だれも知らない みやざき子どもの貧困」)。原稿の一部をもらって高校生に見せたところ、返ってきたのは「これ、日本の話ですか?」という言葉だった。住んでいる家のちょっと近所で起こっている事実であるにもかかわらずである。

同じ地域に違う社会が生じてしまうことは、どんな国でもありうる。イギリスでは社会階級意識が強かったり、アメリカでは人種問題が根深かったりする。だが、そういった目に見えやすい問題に比べ、日本の問題は「ひっそり」と進んでいくことが多い。量的にはミクロでも質的には深刻で、日本の地方部は課題先進国と言われている。言い換えれば、解決・研究すべき問題の宝庫なのである。

起きている問題を「知らない」のは、問題解決の段階のスタートラインに立っていない状況である(と第2回で書いた)。さらに地方では、よい大学に行くために、上位層の学生の多くが地域外へ出ていく。地元のエリートの卵たちが、肌で感じられるような問題を知らずに、その地域を離れていくのだ。地方での教育においては、こうして「問題意識」を育む機会を逸してしまう場合が多い(そこで、私たちが設立したNPO法人では、学校や教育委員会らと協力して、研究活動という枠組みの中で、生徒に地元の社会問題や可能性について学んでもらっている)。

私自身、体系的な知識や専門性を磨かないままアウトプットをメインとする教育は、20代後半で息切れしてしまうことが多いので懐疑的ではある。そればかりではいけない。しかし、自分の肌で感じた問題意識をキッカケとして社会を見渡し、発展・進化させて、より強力な「当事者」として成長してもらいたいと思う。

ニックは現在、日本の南アフリカへの民間投資に関する研究を行っている。日本が好きだし、日本人にもっと南アフリカを知ってほしい。そして、助けてほしい。将来はまだどうなるかわからないが、今は自分の可能性を広げて、故郷南アフリカへの自分なりの貢献をしていきたいとのことだ。友人として全力で協力したいと思う。

岡本 尚也 物理学者・社会起業家

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おかもと なおや / Naoya Okamoto

1984 年、鹿児島県に生まれる。慶應義塾大学理工学部卒、同理工学研究科修了後、ケンブリッジ大学にて物理学博士号を取得。その後、オックスフォード大学にて日本学修士号を取得。ケンブリッジ大学在学中の研究成果がNature Materials 等、世界トップジャーナルに論文が掲載された。帰国後、NPO法人を創業し、現在は一般社団法Glocal Academy 代表理事。社会や学術における諸課題を研究的手法を用いて解決する事を目的とし、後進の育成やそれら課題に取り組む個人及び企業・団体を支援している。http://glocal-academy.or.jp/

2016年冬に新興出版社啓林館より『課題研究メソッド―より良い探究活動のために―』を出版予定。

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