近未来は人間のいない戦争に備える必要がある メタバース空間における戦争「メタマゲドン」も

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現在、このメタバース空間は、特定の複数IT企業による運用が始まったばかりであり、投機的性格の強い閉鎖的なサイバー空間に過ぎないと見る傾向もあり、その将来性が未知数であることは確かです。しかしさほど遠くない将来、技術の進化に伴って公共性の高いサービスがメタバース空間で提供され、SNSと同様に、市民レベルのコモンズとして急速に利用が進む可能性は高いと思います。

その流れの中でメタバースは、ゲームや人的交流のためのプラットフォームのみならず、経済活動の新たな領域として利用が加速する可能性を秘めており、利用者の急増に伴って仮想空間における犯罪や違法行為が増大する懸念があります。

メタバース空間における戦争――メタマゲドン

さらに、空間内の所有権を巡る法的規制が国家レベルで強化されるにつれて、メタバース空間での治安や安全保障上の問題が一層深刻化する可能性も高まっていきます。さらに、EDTs(Emerging and Disruptive Technologies:新興・破壊的技術)によって現実空間と仮想空間の接続性がますます深まる中で、メタバース空間における秩序維持や危機対処という点で、軍事的関与やプレゼンスが求められる危機的事態にもつながりかねません。

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将来的に、メタバース空間を宇宙、サイバー空間と同様に、軍事的な作戦領域の一部と位置づけ、安全保障面における対応のあり方を試行錯誤すべきです。そして今後、メタバース空間における抑止が破綻し、メタバース空間から現実空間へと攻撃の影響がシームレスに波及していくという「メタマゲドン(Metamageddon)」にも備える必要があります。メタマゲドンは、「Metaverse」と「Armageddon(神が悪魔と戦って究極的に勝利をおさめる場所とされる)」を組み合わせた多次元領域融合の戦争を指します。

メタマゲドンにおいては、メタバースが依拠するサイバー空間の脆弱性を掌握し、速やかな被害復旧、原状復帰を図るためのレジリエンス能力を蓄えておくことが攻防のポイントになります。

将来的に、デジタルツインとして潜在的なデジタル資産を蓄えるメタバースは、一つの国家的な基盤システムとなる可能性があります。その際、公共財としてのメタバース領域を、あらゆるリスクや脅威から守り、これらを持続的かつ安定的な領域として確保する視座が求められます。

それを、特定の専門家や一国だけの力で達成することは現実的ではなく、多様性を有する組織横断的な連携や、国際的な多国間協調・協力の上に初めてメタバース領域の安全が成り立つことを理解すべきです。

長島 純 在ブルキナファソ日本国特命全権大使 兼 中曽根平和研究所 研究顧問

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ながしま・じゅん / Jun Nagashima

元航空自衛隊空将。1984年防衛大学校卒業。ベルギー防衛駐在官、国家安全保障局審議官、空自幹部学校長を歴任。欧州、宇宙、先端技術などの安全保障問題に詳しい。共著に『新領域安全保障』などがある。

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