盲目的「推し活」が人間関係に及ぼすマズい影響 「欠点の見えない推し」を推し続ける事の欠点

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一般に、身近なところで理想化自己対象や鏡映自己対象として体験される人たちは、精巧につくられたいまどきのキャラクターや遠くでバズっているインフルエンサーに比べれば、すごくもなければ欠点もみえやすい人たちでしょう。

そのかわり、そうした人たちをとおしてのナルシシズムを充たせる人間関係、いや、お互いにナルシシズムを充たし合える人間関係には、ナルシシズムの成長可能性に通じている側面、いわばナルシシズムの度量を大きくしてくれるかもしれない可能性が伴います。

人間関係を続けていくには多かれ少なかれ、時間やお金がかかるでしょう。気に入らないこと、意見の相違があること、相手の欠点が目につくこと、そうしたなかで関係を続けていくにはストレスがかかる一面もあるはずです。だから全員と必ず人間関係を続けるべきだとは言えませんし、誰とどれだけ付き合うのかには選択の余地が残ります。

それでも、よほど濃厚な人間関係でない限り、付き合っていくコストやストレスはそこまで極端ではないはずです。大親友である必要も、強力な師弟関係である必要もありません。

淡くて細くて長い人間関係を複数持つ

礼儀作法や挨拶をとおしてほんのちょっとずつお互いにナルシシズムを充たし合えるような、お互いのことをほんのちょっとずつ自己対象として体験し合えるような、そんな間柄であればいいのです。

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こうした、淡くて細くて長い人間関係は、濃厚な人間関係と比べて、欠点や意見の相違が見えすぎないのも良い点かもしれません。コフート自身はカウンセリングの際にクライアントとかなり突っ込んだやりとりをしていますが、私たちが同じことをやろうとしたら「生兵法は大怪我のもと」になってしまうでしょう。

淡くて長い、でもなかなか切れない関係を持つことに値打ちがあるとみて、そのような関係を複数持てることがさしあたっては大切ではないでしょうか。

熊代 亨 精神科医・ブロガー

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くましろ とおる / Toru Kumashiro

1975年生まれ。信州大学医学部卒業。精神科医。ブログ『シロクマの屑籠』にて現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信し続けている。通称“シロクマ先生”。著書に『ロスジェネ心理学』、『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(ともに花伝社)、『「若作りうつ」社会』(講談社現代新書)、『認められたい』(ヴィレッジブックス)、『「若者」をやめて、「大人」を始める』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』『何者かになりたい』(イースト・プレス)がある。

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