台湾と韓国で同時台頭する政界「第3極」に注目せよ 世界秩序の歴史転換に日本は鈍感だ

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長々と歴史を振り返ったのは、両者を植民地支配した日本も、戦後はアメリカとの同盟関係を最優先する政治構造を受け入れ、民意もそれに従った点で台湾、韓国と共有していることを強調したいからである。第3極の登場は世界秩序の変化を微妙にかぎ取った民意の変化を感じる。

世界秩序の歴史的転換に直面しているのに、日本政府をはじめメディア、国民とも状況の大変化を意識していない。世界秩序の歴史的転換を見誤ってはならない。

中国は頼氏を「台湾独立」路線と非難していることから、日本国内では、習政権が武力行使を含め緊張激化を予測する向きが多い。だが筆者の見立ては真逆だ。中国は軍事的威嚇を強めても武力行使せず、日米政府が煽ってきた「台湾有事」は遠のくと見ている。

日本では台湾選挙の結果を受け、台湾有事が現実化するという極論がメディアで横行しているが、それは誤りだ。

武力行使はアメリカ、日本との武力衝突を覚悟する必要があるだけでなく、世界と中国の経済を危機的状況に陥らせ、共産党支配を崩壊させかねない。中国にとり最もリスクの高い「自殺行為」だからだ。

対中政策の見直しが急務

険悪化する米中関係も2023年11月に開かれた米中首脳会談が行われ、衝突回避のため「一時休戦」の黙約で合意したというのが筆者の分析だ。

バイデン大統領にとっては2024年11月の大統領選挙まで、対中休戦を維持するのがベターな選択だ。一方で不動産不況が長引くなかで中国にとっても、経済立て直しを中心に内政に精力を集中したいのが本音だろう。

西側では、台湾有事を煽る政府の宣伝をメディアが無批判に“広報”し、それが世論を形成してきた。その結果、中国問題になるとうそでも「チャイナ・バイアス(対中偏見)」のスイッチが入り、対中誤解が「ボタンの掛け違い」のように、台湾有事にリアリティを増幅させている。

新たな世界秩序の重要な主役になる中国と敵対し続けることは日本の利益にならない。台湾と韓国で起きた民意の変化から学んで、大状況の変化に対応した対中改策を早急に開始すべきだ。

アメリカと中国が1972年に「ニクソン訪中」を行い、日本の「頭越し」に歴史的な和解で合意したことを忘れてはならない。自民党の派閥抗争は「コップの中の嵐」にすぎない。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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