「なぜ自分が」被災者の心の傷に、我々ができる事 専門家「被災者が孤立しないためのケアが必要」

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ライフラインの復旧はなかなか進まず、被災者は厳しい避難生活を余儀なくされている。

石川県は長引く避難生活の環境を改善するため、病気の人や高齢者、妊婦などを中心に、被災地の避難所である「1次避難所」から、被災地以外にある宿泊施設などへの「2次避難」を呼びかけている。

高橋さんは「安全で暖かい場所とご飯と水といったものが少しでも早く手に入れば、体の傷も心の傷も低減するので、できれば2次避難所へ移ってもらったほうがいい」と考える。「心のケアはライフラインや安全な環境が充足される状態になってからスタートするもの。やはり体が資本です」。

今後、被災地は復旧が進む地域、進まない地域が分かれ、平常を取り戻す人、取り残される人と二極化が広がることが予想される。

被災者にはどう向き合えばいいか

私たちは遠方へ避難してきた人など、被災者と向き合うこともあるかもしれない。今つらい思いをしている人たちに、どのように接すればいいのだろうか。

高橋さんは「『頑張れ』と被災者を励ます人がいますが、被災者はすでに頑張っているので、声をかけるときは想像力を働かせることが大事」と助言する。

「自分がその立場だったら、どういうふうに声をかけられたらいいか、どういうふうに言われたら傷つくか、考えたうえで声をかけるよう心がけてください。自分は良かれと思っても、自分の考えを押しつけるのではなく、被災者の声に耳を傾けて」と話す。

これからは命の危険を感じるフェーズから、今後の生活をどうするかという現実的な不安を抱くフェーズに移る。

「被災者の不安な心を回復させるために大切なことは、生活の再建を支援すること。将来への不安を抱えた被災者が孤立し、絶望してしまうことのないよう、不安に寄り添った長期的な支援を体と心のケアと同時に行っていくことが必要なんだろうと思います」(高橋さん)

被災地支援のため筑波大学附属病院(茨城県つくば市)から石川県へ出発するDPATの車。撮影日は2024年1月6日(写真:筑波大学提供)
井上 志津 ライター

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いのうえ しづ / Shizu Inoue

東京都生まれ。国際基督教大卒。1992年から2020年まで毎日新聞記者。現在、夕刊フジ、週刊エコノミストなどに執筆。福祉送迎バスの添乗員も務める。WOWOWシナリオ大賞優秀賞受賞。著書に『仕事もしたい 赤ちゃんもほしい 新聞記者の出産と育児の日記』(草思社)。

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