JAL「初めて尽くしの新社長」を待つ2つの難題 CA出身で現場経験は豊富だが未知数の経営手腕

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しかし2023年4~9月期時点での業績を見ると、収益力の差は貨物だけではない実態が浮かび上がってくる。

2023年度に入ると貨物市場は停滞する一方で、訪日客を中心に旅客が大きく回復し、チケット単価も高騰している。両社の収益源となっている国際線でも差がつきそうだ。

整備などの立て直しも急務

次に現場の立て直しだ。1月2日の羽田空港衝突事故における乗客対応では評価をあげたが、2023年12月末に子会社のJALエンジニアリングが国土交通省から業務改善勧告を受けている。

【2024年1月19日9時45分追記】初出時の「業務改善命令」を「業務改善勧告」に修正します

2023年9月の羽田―熊本を往復する便で整備確認が未実施のまま機体を運航していた。さらに一部機材のブレーキ交換作業において、定められた器具を用いずに作業を実施していた。

JALエンジニアリングは原因として「法令および規程などへの理解不足」や「安全運航を最優先する意識の不足」、「安全管理体制における仕組みの不足」を理由にあげている。「リスク対応の経験や準備不足、実効性のある訓練が不足していた」ことなどが背景にあると同社が説明するように軽微なミスではない。

また、JALの経営陣が現場出身者中心となっていることで、「国交省に監督されている現場の出身者は当局との交渉が不得意。当局の主張を聞くばかりになってしまう」という心配の声も聞こえる。

「ドル箱路線」である羽田空港発着枠の配分は国交省が管轄するなど、国交省が航空会社に持つ影響力の大きさはよく知られている。整備など現場に近い部門も監督当局である国交省との距離が近くなりがちだ。そのような現場出身の経営者が続くと「当局との交渉力が下がってしまうのではないか」というわけだ。

JALでは2010年の経営破綻以降、整備士、パイロット、客室乗務員と4代続けて現場出身者が社長に就任することになる。現在の取締役も6人中4人が現場出身者だ。「当局の主張を聞くばかりになる」との心配は杞憂ともいえない。

鳥取氏は経営課題や不安の声を払拭できるのか。社長着任早々にその手腕が試される。

星出 遼平 東洋経済 記者

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ほしで・りょうへい / Ryohei Hoshide

ホテル・航空・旅行代理店など観光業界の記者。日用品・化粧品・ドラッグストア・薬局の取材を経て、現担当に。最近の趣味はマラソンと都内ホテルのレストランを巡ること。

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