「松本ずっと嫌いだった」投稿をそう軽視できぬ訳 空気の変化はずっと、水面下で進行していた

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ただ、そうした経緯も踏まえつつ、「嫌なら見るな」の根源を考えてみると、「自分が好きなコンテンツを守りたい」という純粋な思いが見えてくる。たとえ他人から、ただのノスタルジーだなどと言われても、コンテンツと過ごした時間は実際にあり、それを否定されることは、居場所を奪われるのと同じだ……と感じるのではないか。

幼き日のノスタルジーを否定されたくない。育ってきた環境を否定されたくない。そんな心情が、異なる意見の排除につながる。防衛本能に身をまかせて、反射的に「見るな」と投稿してしまう人も相当数いるはずだ。

時代は否応なしに変化していくもの

多様性やら、ダイバーシティやら、声高に言われている昨今だが、ことコンテンツに対する価値観は、こだわりがぶつかりやすい。「嫌いだ」「嫌なら見るな」と正面から対立するのではなく、互いに尊重し合える術はないものか。

皮肉にも、先にあげた、アルゴリズムによる「あなた宛のオモシロ」の普及は、ひとつの着地点になり得るだろう。自動的に「嫌」が排除されれば、思わず出くわしてしまう機会も減る。これからAI(人工知能)の技術が、さらに発展すれば、好き嫌いを判断するコンシェルジュ役としても、有能になってくるだろう。

とはいえ、好きなものばかりに触れるのは、それはそれで問題だ。また、いざ向き合ってみないと、好き嫌いの判断もできない。「マズい、もう一杯!」という青汁のCMではないが、苦手だとわかっていても、あえて血肉になるからと接することもあるはずだ。

また、どれだけ技術が進歩しても、興味が個人ベースに細分化されつつある時代においては、センスや「ツボ」までは判断しにくい。「嫌い」の機械的な排除は、思わぬ「好き」との出会いを妨げるおそれと表裏一体だ。AI開発の主軸になっているビッグデータ解析だけでなく、ありとあらゆる、その人独自の特性を収集し、情報をレコメンドするまでには、技術的にも費用面でも、まだまだ時間を要するだろう。

では、そこまでの生存戦略として、どうすべきかといえば、極めて簡単な話だ。「言いたいヤツには言わせとけ」。自分の価値観を貫きつつ、こういう考えもあるのねと、いったん受け止める。自分との違いを冷静に判断できれば、なおいいだろう。

そうすれば、「実は昔から嫌いだった、苦手だった」系の投稿に、過剰に反応することもなくなるのではないか。もし、あなたの価値観のほうが時代に合っているのなら、いつしか反対意見はフェードアウトしていくのだから。

城戸 譲 ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー

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きど・ゆずる / Yuzuru Kido

1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ジェイ・キャストへ新卒入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長などを経て、2022年秋に独立。炎上ウォッチャーとして「週刊プレイボーイ」や「週刊SPA!」でコメント。その他、ABEMA「ABEMA Prime」「ABEMA的ニュースショー」などネット番組、TOKYO FM/JFN「ONE MORNING」水曜レギュラー(2019.5-2020.3)、bayfm「POWER BAY MORNING」などラジオ番組にも出演。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
X(旧ツイッター):@zurukid

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