「松本ずっと嫌いだった」投稿をそう軽視できぬ訳 空気の変化はずっと、水面下で進行していた

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他方、松本さんやダウンタウンをめぐる「空気」が変化した背景には、メディアの影響も、おそらくある。「KY(空気を読め/空気が読めない)」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされたのは2007年。その翌年のiPhone上陸により、スマートフォンが日本に普及し始める。

エンタメ受信機が「一家に一台」から「ひとり一台」になったうえ、ターゲティング技術が進歩して、それぞれに最適化された「あなたへのオススメ」が表示されるようになると、「みんなが見ている番組」は減り、その興味も細分化されていった。

テレビ局が推す「万人向けのオモシロ」ではなく、アルゴリズムが推す「あなた宛てのオモシロ」に触れていくにつれて、かつて触れたコンテンツに「そういえば、面白かったのかな?」と懐疑的な見方を示しても不思議ではない。

旧ジャニーズ事務所をめぐっても、似たような側面がある。ジャニー喜多川氏の性加害問題が話題になったことで、「そういえば……」と、これまで気にしなかった違和感が浮かび、それをSNSで共有したくなる。

つまり「カリスマの失脚」に乗じて嫌悪感を示し始めたわけではなく、時代の変遷による変化や、テレビへの接し方の変化などが重なったうえで、長年のモヤモヤにひとつの答えが出たのが、今だったというだけなのではないか。

昭和が終わり、平成も終わり、テレビの地位が相対的に低下した。そのうえで、視聴方法も変化し、個人に最適化されるようになり、令和になって数年が経過した。大衆が変化するのにも、十分な時間があった……そう考えても、おかしくはないだろう。

ファンによる「嫌なら見るな」も考えものな理由

今回の件に限らず、SNS上では「嫌いだった」といった反対側に、しばしば「嫌なら見るな」といった主張が見られる。

だが、この主張自体が考えものなのかもしれない。というのも、ナインティナインの岡村隆史さんが、テレビ番組について同様の趣旨の発言をし、大きなバッシングを受けているからだ。

当該の発言がなされたのは、2011年夏のこと。振り返ると、ちょうどその頃は、まさに空気が変わる節目だった。東日本大震災を経て、SNSの存在感が増すなかで、岡村さんの発言は「テレビ業界の傲慢さ」と受け取られ、民放各局が低迷していく転換点となった。

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