2024年の日経平均の上値は3万6000円で問題ない 国内はDX投資が活発、アメリカの景気も軟着陸

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失業率の見通しは2024年に(これまでと同様に)4.1%へと上昇するも、2026年まで同水準で推移する見通しが維持された。ソフトランディングの定義を「景気後退を回避しつつ、インフレ沈静化に成功する」とするならば、Fed(アメリカ連邦準備制度)はそうした見通しに自信を深めていると解釈できる。

注目のドットチャート中央値は2024年を中心に下方にシフトした。2024年は4.75%(25ベーシスポイントの利下げを3回)、2025年は3.75%(4回)、2026年は3.00%(3回)となり中立金利(インフレ率を加速も減速もさせない政策金利水準)は2.5%で不変だった。

9月FOMC時点では2024年は2回の利下げ計画となり、それが10月末までの長期金利上昇(4%前半から5%近傍まで)を引き起こしたが、反対に今回は3回相当の利下げ計画が示され、最近の長期金利低下に拍車をかけた。なお、夏場に盛り上がった中立金利上昇の議論がドットチャート上に反映された形跡は現在のところない(小数点2桁ベースの平均値も不変だった)。

パウエル議長発言に滲み出る政策転換の強い意志

パウエル議長の記者会見もハト派に傾斜した。冒頭の原稿を読み上げる部分では、失業率の大幅上昇を招くことなくインフレ率が低下していることを「とても良いニュース」と歓迎した。そのうえで「政策金利はピークかその付近にある」「(利上げの可能性は排除しないが)FOMC参加者は追加の利上げが適当であるとはみていない」と言及した。またインフレの根幹にある労働市場の需給逼迫については「良いバランスに向かっている」と評価した。

その後の質疑応答では「利下げが視野に入り始め、金融市場でそれが論点になっていることは明確であり、我々もそれについてきょうの会合で議論した」「(インフレ率低下を)待ちすぎることで利下げが遅くなるリスクについて認識している」とした。

以前は「利下げは時期尚早(premature)」と一蹴してきたが、これまでの態度から明らかな変化がみられており、口頭ベースで政策転換(ピボット)があった。

パウエル議長以下、FRBの高官は金融政策の軸足を「インフレ退治」から「雇用の最大化」に移そうとしているようにみえる。この見方が正しければ、景気を守るための利下げが実施され、それが米国株はもちろん日本株にも追い風となるだろう。これらを踏まえると3万6000円という日経平均株価の予想は妥当性を有していると考えられる。

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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