「ヤバい温暖化」に本気で挑む23歳化学者の生き方 10歳からはじめた研究活動はもうすぐ14年目

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実は今、船体に取り付けて海中に溶け込んでいる二酸化炭素を回収する『ひやっしーまりん』の研究開発も進めています。これは、ぼくの本を読んで化学者を志すようになり、CRRAの特任研究員になってくれた小学5年生の加藤 諄之(じゅの)くんのアイデアから生まれました。発明や発見に年齢や経験など関係ありませんから、10歳のアイデアで新しい事業に乗り出せることをぼくたちは誇りに思っています」

100年間、誰も見つけられなかった発見に成功

村木さんの発明はこれだけではない。むしろ、ひやっしーは地球を守るための突破口にすぎないとも言える。というのも、村木さんは高校2年生のとき、100年間誰も見つけられなかった「新触媒を使ったサバティエ反応」を発見したのだ。

100年前にフランスの化学者ポール・サバティエが二酸化炭素と水素を混ぜてメタンを作る発見をしたが、費用が高すぎる、空気中で燃えてしまうなどの問題で実用化が難しかった。この100年前の発見をヒントに広島大学と一緒に実験をした村木さんは、見事、二酸化炭素からガソリンの代替燃料となるエネルギーを作り出す発明をしたのである。

「実験は簡単で、小さな金属製の容器にアルミホイルと一滴の水、そして二酸化炭素を入れて機械でシェイクしただけです。それまでの実験では水素を使っていたけれど、気体だとスカスカして反応しにくいかも?と思って、水素の原子を含む水に変えてみたんですね。その実験の最中、パソコン画面上の分析グラフで天然ガスのメタンが生まれた証拠が現れたときの感動は忘れられません。研究室にいた人たちと歓声を上げて、みんなで飛び上がって喜びました」

この発明をベースに、二酸化炭素からエタノールをつくり、石油代替燃料を合成する「そらりん計画」も進めている。千葉県野田市にCRRA新東京サイエンスファクトリーという工場も完成した。

「現在はここで、二酸化炭素からエタノールを作る研究を今2つ進めています。ひとつは、藻の力を使って生物学的に二酸化炭素から燃料を作る生化学的方法。もうひとつは、二酸化炭素から直接エタノールを作る化学的方法です。前者はすでに実現可能ですので、プラント建設ができれば二酸化炭素から燃料は作れます。ただコスト面の問題があって、他社を含めバイオ燃料はどう頑張って作っても1リットル1万円ほどかかります。当機構が世界ではじめて発見したスピルリナという藻を使えば予算は少し抑えられますが、それでもまだ高いんですね。

一方、後者の研究は電気化学還元といって、世界でもまだブルーオーシャンの領域です。これも仕組みは簡単で、電極を刺した水槽の中に二酸化炭素が溶け込んだ水を入れて、乾電池くらいの電圧をかけるだけで二酸化炭素がエタノールに変わる反応です。電極材料は10円玉にも使われている銅と、炭素の棒でもできるので、1リットル130円くらいで安く作れる可能性があります。こちらが実現できればすごいことになって、石油燃料を合成できるだけでなく、石油製品と呼ばれているものも作れます」

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