寄付額1兆円突破「ふるさと納税」大衆化の危うさ 上位10%の自治体が"寡占状態"で広がる格差

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最近では「訳あり品」と称してお得感をアピールしたり、ティッシュペーパーなどの生活必需品で寄付を集めたりと、生活防衛に敏感なユーザー層への訴求が目立つ。「寄付」「地方創生」を掲げるが、本来ならば住民税として公共のために使われるお金を、返礼品に変えているのが実態だ。

多くの自治体は返礼品競争に熱を上げ、ポータルサイトは自社サイト名を連呼するだけのようなCMや、過度なポイント還元施策でシェア争いを繰り広げている。こうした「ふるさと納税商戦」が、年の瀬の風物詩としてすっかり定着してしまった。

このままでは、制度の存続そのものが危うくなる可能性もある。いちばんの主役である地方自治体の悩みも深まるばかりだ。

理念では人気の返礼品には勝てない

京都府宇治田原町は、人口8000人余りの小さな町だ。大きな茶畑や、茶葉を販売する小売店があり、緑茶発祥の地として知られる。2005年をピークに人口減少が続いており、「20〜30年後には、いくつかの集落が限界を迎え、遠い将来には消滅するかもしれない」と、企画財政課ふるさと応援推進係長の勝谷聡一氏は危機感を募らせる。

京都府宇治田原町は、緑茶発祥の地で知られる(記者撮影)

宇治田原町では、ふるさと納税で集めた資金の使い道を「未来挑戦隊『チャレンジャー』育成プロジェクト」と称する子どもの教育に一本化している。勝谷氏は「大人たちが真剣に子どもたちの将来を考えている姿勢を見せることが肝心」と話す。

唯一の公立中学校では、地元の製茶場などによる商品開発の授業を毎年行っている。中学生の発案したアイデアを実際に商品化し、返礼品として提供している。

同町に住む西出孝さん、淳子さん夫妻の家では、3姉妹の長女が就職を機に町外へ転出した。淳子さんは「(長女が)今後町に戻って近くに住んでくれたらうれしい。町の子育て支援の充実は、その後押しになる」と期待を寄せる。最近では、小学校の教員から「こんな事業をチャレンジャー事業でやってもらえないか」と提案されることも出てきた。

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