南シナ海危機は日本の存立危機事態ではない 日米共同パトロールはリスクが大きすぎる

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海自は、このパロトール活動に常時2隻の護衛艦と2機のP-3C哨戒機を派遣している。今月初めて、海自の海将補が、その多国籍部隊の司令官を務めることになった。海自部隊は、この任務に於いて重要な役割を担ってはいるが、しかしそれでもワンオブゼムの存在であり、海自の護衛艦が抜けても任務に致命的な支障を来すことは無い。

では南シナ海での共同パトロールなるものは、いったいどのような形になるだろうか。国民の大多数はきっと、アメリカ第7艦隊が主体となり、海自艦艇はそのサポートに回るものだと推測するだろう。だがしかし、そこに第7艦隊はいない。恐らくそこに、アメリカ海軍の艦艇は、陰も形もないと断言してよい。

第7艦隊の戦力にも懸念点

第7艦隊は、確かに世界最強の艦隊であるが、その戦力に往時の面影はない。水上艦艇に限るなら、平時は50隻前後しかない。兵員も僅か2万名である。固定翼部隊もいるとはいえ、海自は4万を超える兵員を持っている。

一般的に平時の海軍では、保有する艦艇の3分の1は常に港にいて乗組員が上陸中か、艦艇そのものがドック入りして整備中である。実際に作戦行動中の第7艦隊の水上艦は、従って30数隻に満たず、この数は、わが海自の主力護衛艦艇の数とたいして変わらない。それだけの数で、ハワイから西、南はマラッカ海峡を超えて南半球、西は更にインド洋までカバーしているのである。南シナ海のパトロールに割くような戦力は存在しない。現に、該当海域に一番近い港であるシンガポールのチャンギ軍港には、たった一隻、沿海域戦闘艦(LCS)がローテーション配備されているだけである。

報道では、先頃そのLCS「フォートワース」が南沙で1週間のパトロールを行ったと喧伝されたが、逆に言えば、あの第7艦隊が、南沙でできる示威行動はその程度に過ぎない。LCSはしばしば「米海軍の最新鋭戦闘艦」と表されるが、沿海域戦闘艦の名が示すように、本来は沿岸部での行動を念頭に開発された軍艦であり、実は武装も貧弱で、正規海軍を相手に暴れ回るようなタイプの軍艦ではない。米海軍は将来的に、このチャンギ軍港への配備数を増やす予定ではいるらしいが、いずれにせよ、そこに世界最強の空母機動部隊がいるわけではない。

しかも、ソマリアの海賊対処では、各国海軍の参加があったが、南シナ海では、他国海軍の参加はほとんど見込めない。あの辺りで、まともな海軍を持っているのはシンガポールくらいだが、彼らは参加してくれるだろうか。共同パトロールと聞いて出かけてみたら、呼びかけた米艦隊すら居ず、海上自衛隊ひとりぼっちだったという事態になりかねない。

実際のパトロール作業を想定してみる。2隻で一つの艦隊を編制してパトロールするとしよう。中国が今、基地を建設中の南沙、及び西沙諸島は、実は日本海と同じくらいの広さがある。とても2隻ではカバーし切れないから、この2隻のパトロール艦隊を最低二つは動かす必要がある。常時4隻がこの海域にいるとして、4隻が日本の母港とを往復中、そして4隻が港で休暇もしくは補給及び補修中となる。最低でも12隻がこの任務のために割かれることになる。

現在、ソマリア沖にも常時2隻派遣しているので、海上自衛隊が保有する半分もの護衛艦が、海外での国際貢献任務のために割かれることになる。尖閣警備や、北朝鮮のミサイル警戒という任務もあるのに、そんなことが可能だろうか。もし共同パトロールを実施すれば、乗組員の負担も苛酷なものになるだろう。

台風避難など、臨時の補給や避難場所も必要になる。フィリピンの協力が得られるだろうが、港湾整備や補給拠点の整備に、それなりの資金を出す必要があろう。洋上監視には哨戒機も不可欠であり、その基地も借りる必要がある。

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