熊本県の調査で判明・TSMCは環境保護の優等生 台湾半導体産業が持つ環境保護供給網の実力

拡大
縮小

馬蔚総経理は、以前は工業廃水と言えば、5から6種類の排水システムを構築すればよかったが、今では数十種類に分類。材質もより優れたものを用いなければならないと語る。

「以前は複数種の廃水を一緒にして処理すれば良く、配管の材質について特にこだわる必要はありませんでした。しかし現在は数十種類に細かく分類。強酸や強アルカリ濃度の廃水である可能性も高く、必然的に配管の材質もそれに対応したものとなり、コストがかかります」

TSMCは今周刊に対し、現在では2030年までに台湾工場すべてでリサイクル率60%以上を目標にしている。現状では処理能力は、「1滴の水を3.5回繰り返し使用する」レベルまで達していると語った。

しかし熊本工場では、これらのレベルをさらに上回る基準になるという。豊富な地下水を持つ熊本県で半導体製造を始めるため、TSMCは30種類を超える廃液処理プロセスを構築。リサイクル率は75%以上を目指すとのことだった。

熊本調査団を驚かせたTSMCの実力

2020年、アメリカハーバード大学のユディット・グプタ研究員が、「インテル、マイクロソフト、アップル、フェイスブック(現メタ)、グーグル、華為とTSMCのサステナビリティレポートから、ハードウェアの製造過程こそが炭素排出の主因である」とする論文を発表した。半導体製造企業にとっては、この文に続く結論の一文に衝撃が走ったのである。

「情報通信ハードウェア領域で、半導体製造は炭素排出大部分を占める」

この論文で環境首都である熊本県も大気汚染を注視する要因になったのは言うまでもない。しかし台湾の半導体工場は、炭素排出抑制や大気汚染について水質汚染に比べより早い時期から取り組み、実績を残してきたのだった。

1991年からTSMCと多くの半導体製造企業の排気処理を請け負ってきた華懋科技によれば、まだ台湾内の関連法規が整備されていなかった1990年代から、産業界を牽引してきた半導体製造大手が、いち早く揮発性有機化合物やガスの処理に着手してきたと言う。

一方、熊本県の報告書では次のように記述され、大気汚染については問題ないとされた。

〈 モニタリング結果は、台湾の環境基準を満たしている。 多くの調査項目が、日本の環境基準内であった。 一部の項目(微小粒子状物質(PM2.5)、光化学オキシダント(03)及び非メタン炭化水素(NMHC))は、日本の環境基準等を満たしていないが、サイエンスパークに起因するものではないことを確認した〉

今回の報告書の責任者でもある熊本県の環境政策課の宮原薫代表は、TSMC熊本工場は日本の関連法規を順守し日本の基準に則った各種環境基準もクリアしていると話している。

TSMCでは2018年にホームページのCSRトピックで「硫酸銅廃液が生まれ変わる過程」と題した動画を掲載。硫酸銅が銅管にリサイクルされる過程を紹介していたが、今回の調査では、電解リサイクルシステムで高濃度の銅を含有する廃水を純度99%以上の銅にリサイクルされることを確認したという。

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT