「教育熱心」と「教育虐待」のボーダーライン 子どもを追い詰める教育熱の根底にあるもの

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「子どもは、親が望むのであればと、自分の気持ちは置き去りにして血を吐くような思いで勉強をします。しかし、そうした状況が続くと、誰にも相談をできないまま、プツンと心の糸が切れてしまいます」(石井さん)

教育虐待が子どもの心に与える傷について、先の武田さんはこう話す。

「叩かれたり殴られたりしていないのに、真綿で首を絞められるように、心身へのストレスによる継続的なPTSD(心的外傷後ストレス障害)状態になることもあります。

子どものころからディスエンパワー(自分の意思で何かに取り組むことを諦めるように仕向けられる)されているため、自分ならできるという自己効力感を持てず、つねに他人の評価を気にしてしまうなど、成長してからさまざまな症状が出ることもあります」

親が変わる必要がある

防ぐにはどうすればいいのか。

NPO法人「女性・人権支援センターステップ」(横浜市)理事長の栗原加代美さんは、こう考える。

「親が変わる必要があります。教育虐待の根底にあるのは怒りです。例えば子どもが思うような点数を取ってこない、それに対する怒りです。虐待をする親は一様に『自分が正しい』と思い込み、『虐待』をしている意識がありません」

同法人は、アメリカの心理学「選択理論」を用い、加害者の更生に力を入れている。加害者20人ほどが1つのグループになり、怒りの感情を抑える対処法を学び、「自分の思い通りになってほしい」という理想像を押しつけず相手を尊重する気持ちを養っていく。

例えば、怒りがわいた時「相手は精一杯の選択をしている」と考える。すると、試験で20点しか取らなかったとしても「子どもは精一杯の選択をした」と思えば怒りはわいてこない。週に1度、全52回続けると、8割はDV思考や怒りをコントロールできるようになるという。

「加害者が変わることが被害者を救うことになります。加害者の更生と被害者の保護は、両輪でなければいけません」(栗原さん)

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