親の介護で昇進を断念、悲観せず何ができるか 思い通りにならない現実で気づける視点もある

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親の介護は、このビジネスというフレームを、確実に無意味なものにします。長い年月をかけて最適化してきた環境も、大きく変化します。そして、過去に積み上げたことが無駄になったりもします。

しかしこのとき、私たちの内部で燃え続けていた「なんとも表現しがたい不安」の原因も明らかになるでしょう。ここで「ビジネスは、人生のほんの一部にすぎない」という当たり前の事実の認識が起こるからです。

私たちは、ただ幸せに生きたいだけなのです。そして私たちの幸せは、愛する家族が笑顔のうちに生きられることにも大きく依存しています。

そうした視点を獲得し、今一度ビジネスや介護について深く考えてみたとき、それらは(やっと)自分の幸福のために、どちらにも偏りすぎることなく最適化すべきものとして新たに立ち上がってくるのです。

介護は「重要な変化のチャンス」

ビジネスの世界で認められ、もっと偉くなりたいという価値観への過度な依存は、最も危険で、私たちから自由を奪うものです。その価値観の中では、他のすべての物事が、自分が偉くなるための手段になり下がるからです。

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それは、私たちにとって最も重要な「愛」という視点を失うということと同義です。私たちにとって、偉くなることは、愛する人々と幸せに生きるための手段だったはずです。

しかしいつしかそれが目的になってはいなかったでしょうか。それこそ「なんとも表現しがたい不安」の根幹ではないでしょうか。

親の介護は、子どもの人生が親の犠牲になるという話ではなく、親が子どもに与えてくれる重要な変化のチャンスかもしれないのです。

親は自分の人生の最後の時間を使って、矮小で間違ったフレームにとらわれている自分の子どもを揺さぶり、子どもに真の自立をもたらすのだと思います。

酒井 穣 株式会社リクシス 取締役副社長CSO

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さかい じょう / Joe Sakai

1972年、東京生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg 大学 TIAS School for Business and Society 経営学修士号(MBA)首席(The Best Student Award)取得。商社にて新事業開発、台湾向け精密機械の輸出営業などに従事後、オランダの精密機械メーカーにエンジニアとして転職し、オランダに約9年在住。帰国後はフリービット株式会社(東証一部)の取締役を経て、独立。複数社の顧問をしつつ、NPOカタリバ理事なども兼任する。主な著書に『新版 はじめての課長の教科書』(ディスカヴァー)、『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』(光文社新書)など。

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