勝負は3秒!そそる仕掛けで歩きスマホは減るか あっと驚く、ついつい見てしまう仕掛け3選

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ただ、歩きスマホをしている人がポスターに気づく割合は、マスクポスターと一般ポスターに有意な差は見られなかったことから、歩きスマホの誘引力の強さを再認識する結果となった。

そそる仕掛けの条件

仕掛けが「そそる」ための条件は、何か楽しいことが起こりそうだと人に期待させることである。見たことも聞いたこともないものを見てもそういう期待は起きようがないので、期待してもらうための何かしらの手がかりが必要である。

その手がかりの1つは、我々の過去の経験や体験にもとづく遊び心である。たとえば、ゴミ箱の上にバスケットゴールをつけると、ゴミをボールに見たててシュートする人が現われるので、結果的にゴミ箱の利用者が増える。これは、過去にバスケットボールで遊んで楽しかった経験や体験がバスケットゴールを見た時によみがえり、そそられるからである。バスケットボールで遊んだことのない人にはその効果が弱いだろうし、バスケットボールを知らない人には全く効果がないだろう。

過去の経験や体験は、生まれ育った環境や文化の影響も大きい。関西人であれば、毎週土曜日のお昼に放送されている吉本新喜劇や551HORAIのテレビコマーシャルを知らない人はいないだろう。したがって、関西人を対象とする場合には、吉本新喜劇のギャグを想起するようなものやテレビコマーシャルを想起するようなものでも使える手がかりになる。

環境や文化は国によっても異なる。日本では家に入るときに靴を脱ぐが、世界を見渡すと靴を脱がない国も多い。日本ではご飯を食べる前に「いただきます」というが、これに直接対応するような言い回しは世界にはあまりない。車が左側通行の国もあれば、右側通行の国もある。ご飯が主食の国もあれば、パンやジャガイモが主食の国もある。野球や相撲が人気の国もあれば、クリケットやセパタクローが人気の国もある。対象とする人の環境や文化に応じて使える手がかりは変わる。

また、そそる仕掛けの発動のしやすさは、仕掛けの設置場所や対象者の属性といった状況によっても変わる。たとえば、通勤途中の人より散歩中の人のほうが仕掛けに反応してくれやすい、1人でいるときより友達と一緒のときのほうが仕掛けに反応してくれやすい、大人より子供のほうが仕掛けに反応してくれやすい、歩きスマホをしている人には何を仕掛けてもなかなか気づいてもらえない、など枚挙にいとまがない。

まとめると、そそる仕掛けの条件は、過去の経験や体験にもとづく遊び心と、仕掛けを設置する状況の2つあり、両者が同時に満たされたときに最大の効果を発揮するのである。

松村 真宏 大阪大学大学院経済学研究科教授

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まつむら なおひろ / Naohiro Matsumura

大阪大学大学院経済学研究科教授。1975年大阪生まれ。大阪大学基礎工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2004年より大阪大学大学院経済学研究科講師、2007年より同大学院准教授を経て現在に至る。2004年イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校客員研究員、2012~2013年スタンフォード大学客員研究員。趣味は娘たちを応援することと、猫のひじきと遊ぶこと(遊んでもらうこと)。

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