衰退から一転、復活した欧州「夜行列車」最新事情 車両は古くても安さと車内サービスで快進撃

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一方で、価格は旧国鉄系会社よりも低めに設定されている場合が多い。車両は古いが、その分車内サービスは充実しており、スネルタゲットは一部区間で食堂兼売店車両を連結し、レギオジェットは編成に軽食や飲み物を注文できるサービスコーナーを設けている。旧国鉄系の列車では装備されていない車両が多いWi-Fiも装備している。

スネルタゲット 食堂兼売店車両
「スネルタゲット」はスウェーデン国内では食堂兼売店車も連結する(撮影:橋爪智之)

旧国鉄系会社にありがちな、旧態依然としたサービスとは一線を画した民間企業の夜行列車はいずれも魅力的だ。だからこそ高い利用率を誇るのだが、それを迎え撃つ旧国鉄系会社も黙って見ているだけではない。

オーストリア鉄道は新車で勝負

ヨーロッパ最大の夜行列車運行網を持つオーストリア鉄道の「ナイトジェット」は、今年2023年12月10日の冬ダイヤ改正から新型客車を導入する。ドイツ・シーメンス製の新型客車は、オーストリア鉄道の特急列車「レイルジェット」で実績のある「ヴィアッジョ(Viaggio)型」をベースとしており、一部車両はバリアフリーに対応した低床構造を採用、最高速度は時速230kmに達する。もちろんWi-Fiは全車両に装備する。

新型ナイトジェット
オーストリア鉄道の特急「レイルジェット」と同じヴィアッジョ客車を採用した新型「ナイトジェット」(撮影:橋爪智之)
ナイトジェット 制御客車
プッシュプルタイプの新型「ナイトジェット」(撮影:橋爪智之)

今回導入される新型車両のうち、とくにクシェット(ミニキャビン)については、プライバシーを重視したパーテーションを装備するなど、今までにない斬新なデザインが取り入れられている点が特徴となっている。

このクシェットは、例えるなら日本のカプセルホテルのようなもので、通路側に荷物や靴などを入れるロッカーを設け、寝台は就寝時にシャッターのようにパーテーションを閉じることで、完全なプライベート空間を確保することができる。新型車両の注目度は極めて高く、現在は発売開始と同時に完売となるなど、とりわけ個室寝台やクシェットのチケットを入手するのが非常に困難な状況が続いている。

新型ナイトジェット クシェット
特徴的な窓が並ぶ新型「ナイトジェット」のクシェット(撮影:橋爪智之)
ナイトジェット新型車両
ゼンメリンク峠を通過する「ナイトジェット」の新型車両(撮影:橋爪智之)

夜行列車の絶対的王者、オーストリア鉄道のナイトジェット。新型客車は同社の地位をより確固たるものとするのか、そこに民間企業の反撃はあるのか。ヨーロッパの夜行列車勢力争いから、当分の間は目を離すことができない。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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