TV「愛知あたりまえワールド」が映し出す県民性 地元を意識しない愛知県民を目覚めさせる?

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「名古屋の人は閉鎖的で、出る杭は打たれるというか、目立ったことをすると疎んじられる空気を感じていた。まぁ、それは名古屋人気質のほんの一面ではありますが、それが窮屈に思えたんですよね。二度と帰らないと思っていましたが、帰巣本能が働いたのか、大学卒業後は地元へ戻ってテレビ愛知に入局しました」と、藤城さん。

「愛知あたりまえワールド」プロデューサーの藤城辰也さん(筆者撮影)

制作志望だったものの、叶えられず、制作部に配属されたのは入局して4年目となる2004年で、旅の情報番組を担当することに。2007年にはニュース番組の記者となり、その翌年にテレビ東京へ1年間出向し、ドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」の制作に携わった。この経験が「愛知あたりまえワールド」にも大きく影響している。

「『ガイアの夜明け』で採り上げる人の大半は素人さんで、取材を進めるうちに番組の構成がどんどん変わっていきます。それまではタレントさんの力を借りた、いわば予定調和の番組を制作していましたから、素人さんならではの予定不調和が面白いと思いましたね」(藤城さん)

あたりまえを疑うことから始まった

今年5月にオンエアされた「日本一短い地下街があたりまえ!?」がまさに予定不調和の面白さがあった。舞台となったのは、愛知県東三河地方の蒲郡市。ここに日本一短いといわれる「蒲郡北駅前地下街」があり、数軒の店が軒を連ねている。

もっとも古い店が1945年に駅前の商店街で開業し、56年前にここへ移転してきた「ちどり」という居酒屋。82歳になる2代目女将の齊藤節子さん、通称“せっちゃん”が三女の与子(ともこ)さんとともに切り盛りしている。

節子さん母娘のやさしい人柄や、それに惹かれて足しげく通う常連客との人情物語を紹介するだけでも番組として十分成立するが、この話には続きがあった。与子さんは節子さんの別れた夫、つまり、父親の生活も支えていたのだった。

「しかも、離婚の原因はギャンブルにのめり込んで借金を作ったことだったんですね。父親を憎んでもよいにもかかわらず、懸命に尽くす娘さんの姿に感情を揺さぶられました」(藤城さん)

常連客で賑わう居酒屋「ちどり」の店内。右端が娘の与子さんと2代目女将の齊藤節子さん(写真:テレビ愛知)

「愛知あたりまえワールド」は、前出のような緩いネタもあれば、ドキュメンタリー番組を思わせる硬派なネタもある。この、ごった煮感も番組の魅力であり、何よりも愛知県っぽい。

さて、藤城さんの話に戻そう。出向を終えてからは編成部や事業部で5、6年働いた後、2016年に再び報道制作局へ復帰して今に至る。

これまで担当した主な番組は、6年半続いた人気番組「サンデージャーナル」やものづくりの世界の素晴らしさを紹介する「工場へ行こう」など。

「愛知あたりまえワールド」は2022年10月のスタートだが、「あたりまえ」というフレーズはコロナ禍の2021年に思いついたという。

「新型コロナの濃厚接触者になって、隔離生活を余儀なくされたんです。それがあまりにも不便だったので、あたりまえの生活に戻りたいと思っていました。でも、そもそもあたりまえって何だろうと思って、あたりまえを疑ってみようと」(藤城さん)

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