好機到来だがまだ長い日欧EPAへの道のり

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好機到来だがまだ長い日欧EPAへの道のり

輸出拡大の契機となるか。菅直人首相は5月28日、欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領らと会談し、日本とEU間で経済連携協定(EPA)の予備交渉を開始することに合意した。

EPAは2カ国・地域間での協定。国内の農業団体が反発する環太平洋経済連携協定(TPP)と異なり、個別の交渉で関税撤廃の例外品目を設定できる。日本は11カ国・地域とEPAを発効済みだが、対象は新興国中心。欧米など巨大貿易圏とのEPA交渉は進んでいなかった。

「ようやくスタートラインが見えた。大きな一歩だ」と、日本貿易振興機構(ジェトロ)欧州担当の牧野直史氏は評価する。実際、日欧EPAにはEU域内の自動車業界による反発が根強いうえ、日本への輸出額の7割がすでに無税でメリットが少ないことから、EU側は慎重だった。経済産業省の交渉担当者は「(予備交渉入りは)無理だと思っていた」と明かす。

が、震災を機に「EPAを検討すべき」(英キャメロン首相)などの声が相次ぎ、風向きが変わった。今後期待されるのは自動車などの輸出拡大。欧州の乗用車の新車登録台数では昨年、初めて韓国の現代・起亜グループがトヨタ自動車を上回った。韓国はEUと7月に自由貿易協定(FTA)発効を予定しており、今後日本車のシェアはさらに落ち込む可能性がある。EPA発効は劣勢を挽回する強力な追い風となりうる。

ただし、今回の合意はあくまで「予備交渉」入りが決まった段階にすぎない。今後、発効までには正式交渉、妥結、署名、各国での批准などクリアすべきハードルは多い。

EUはすでに日本側に対し、27項目の非関税障壁撤廃や公共事業の門戸開放などの要求事項を示している。前出の経産省の担当者は「要求に対する日本側の野心を確かめようとしている」と見る。

日本は非関税障壁について、自動車整備工場の面積制限緩和や酒類卸売業認可など3分野では具体策を打ち出したが、その他は未解決。法律改正などの手続きも必要になることから、担当省庁との調整が難航する可能性がある。また「EUと韓国とのFTAではコメ以外の農産物が自由化されたことから、農産物の関税撤廃が問題となる可能性もある」(牧野氏)。辛抱強い交渉が待ち構えている。

(許斐健太 =週刊東洋経済2011年6月11日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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