ヤバい経済学 --日本にこそ必要な“ヤバい経済学”《宿輪純一のシネマ経済学》

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小


 さらに教育こそ大切になる。以下は原作の書籍にあるエピソードだが、学力が低下した米国では、ブッシュ前政権下で「一人も落ちこぼれさせない法」が制定され、問答無用にテストによって学校を表彰・処罰することになった。最悪の場合、学校は閉鎖、教職員はクビになる。これは強力なインセンティブである。
 
 そうしたところ、今度は先生が点数を上げようとインチキを始めた。そのインチキをアルゴリズムで見抜くことによって、米国全体の本当の学力アップにつながっていった。これはニューヨークでジュリアー二市長時代に割れ窓を残しておくことが犯罪の原因とした「割れ窓理論」のようなもので、軽い犯罪を取り締まっていったやり方の流れでもある。

このように、映画、原書籍は、かなり“ヤバい”内容で、今までの常識では眉をひそめる部分も多いが、作者は、説得力のある説明をしている。しかも、人々が経済学を嫌いになる理由の1つといえる難解な数式にはよらない。
 
 筆者は、米国で起こった社会問題は、日本でも発生する傾向が高いと考えている。子供への虐待や満員電車の中の暴力、学生の学力低下、学生の不良化、心の病の広がりなど、社会や企業も硬直化して「日本病」ともいわれる。かつての米国より、現在の日本の状態のほうが問題は深刻かもしれない。

日本は、今までの長年やってきたやり方を変える時期ではないか。世界でも、経済学が最も進歩したと考えられた米国からリーマンショックが発生した。そのため、堅苦しい常識を覆し、本当の部分に食い込むこの『ヤバい経済学』こそ、世界にも日本にも必要である気がする。日本の経済・産業問題も、レヴィット博士に分析していただきたいものだ。個人的には、この作者のレヴィット博士が「出る杭は打たれる」的に、社会的に抹殺されないことを望む。

さて、この映画はすでに公開中。わかりやすい“新しい経済学”を身体で理解していただきたい。


(c)2010 Freakonomics Movie ,LLC

【ヤバい経済学】
5月28日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー 配給:アンプラグド

しゅくわ・じゅんいち
博士(経済学)・映画評論家・エコノミスト・早稲田大学非常勤講師・ボランティア公開講義「宿輪ゼミ」代表。1987年慶應義塾大学経済学部卒、富士銀行入行。シカゴなど海外勤務などを経て、98年UFJ(三和)銀行に移籍。企画部、UFJホールディングス他に勤務。非常勤講師として、東京大学大学院(3年)、(中国)清華大大学院、上智大学、早稲田大学(4年)等で教鞭。財務省・経産省・外務省等研究会委員を歴任。著書は、『ローマの休日とユーロの謎』(東洋経済新報社)、『通貨経済学入門』・『アジア金融システムの経済学』(以上、日本経済新聞出版社)他多数。公式サイト:http://www.shukuwa.jp/、Twitter:JUNICHISHUKUWA、facebook:junichishukuwa ※本稿の内容はすべて筆者個人の見解に基づくもので、所属する組織のものではありません。

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事