「ラグビーW杯」誤審激減でもブーイング急増の闇 ジャッジにITを導入したらどうなるか?

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当時は、選手が自分で自分のミスや反則を裁くセルフジャッジが基本で、微妙なプレーについては両チームの選手が話し合って判定しました。審判が導入されてからも、選手たちのセルフジャッジを審判が補佐する役割でした。

20世紀以降、審判が責任を持って判定するようになりましたが、セルフジャッジの考え方は長く残りました。筆者が大学生だった昭和60年代の関東大学対抗戦グループの公式戦でも、タッチジャッジを両校のラグビー部員から1名ずつ出していました。専門の審判が少なったという事情もあるでしょうが。

審判には誤審が付き物。1982年の大学選手権で、審判が同志社大学・大島眞也選手をラフプレーで退場処分にしました。ところが、大島選手はラフプレーを否定し、対戦相手の明治大学からもラフプレーの指摘はなく、何が起こったのか誰もわからずじまい。「大島退場事件」と呼ばれました。

当時は、こうした誤審疑惑がたびたびありましたが、騒いでいたのはマスコミとファンだけ。選手や監督が審判に抗議することは、ほとんどありませんでした。これは、セルフジャッジでは「審判の判定=自分自身による判定」なので批判してもしょうがない、という考えが根底にあったからでしょう。

ところで、今大会の日本代表は、9月17日のイングランド戦で相手選手の“ヘディング”をノックオン(落球)だとセルフジャッジしてプレーを止めてしまい、試合を決定づけるトライを奪われました。

このように、今日セルフジャッジは、「怠慢プレー」「やってはいけないこと」とされます。ただ、選手たちが自分で判断し、自分の試合をコントロールするというセルフジャッジは、非常に興味深い考え方ではないでしょうか。

プロ化でセルフジャッジの伝統は消滅

1990年代に入って、ラグビーはプロ化に舵を切りました。プロとして生活が懸かっている選手たちにとって、正確な判定が喫緊の課題になってきました。

さらに、ITを使った分析で戦術が高度化・複雑化しました。インプレーの時間が長くなり、攻守のスピードも格段に上がりました。セルフジャッジどころか、1人の主審を2人のタッチジャッジが補佐しても、なかなか正確に判定を下すことはできません。

必然的に、プロ化以降、試合中に微妙な判定を巡って選手が審判に詰め寄るという場面が増えました(サッカーほどではありませんが)。こうしてセルフジャッジという考え方は、完全に消滅しました。

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