岸田政権の台湾政策を支える「ネオ台湾派」の台頭 「リベラル」母体の新勢力の認識は正しいのか

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麻生氏の言動をもう少し振り返る。彼は蔡英文総統とも会談し、台湾有事の際の邦人保護問題への対処や安全保障面での日台連携も話し合った。

政権中枢を担う与党副総裁が、国交のない台湾のトップと政治・軍事関係の強化という外交の基本と法的枠組みに違反する言動をするのは、日中関係の精神に違反するのは明らかだ。記者会見で麻生氏は、2024年総統選について民進党支持ともとれる「内政干渉発言」すらした。

麻生訪台には日本から多くのメディアが同行したが、メディアから「外交の基本と法的枠組み違反」を問題視する報道はほぼなかった。日本世論で中国脅威論が浸透し、日中間の法的枠組みや約束事について「神経麻痺」を起こしているからではないか。

中国報道では事実に基づかない報道でも責任を問われない「気安さ」が常態化していることが手伝っていると思う。

日本の「民主」それほどご立派か?

もう一つ例を挙げる、やはり元朝日新聞記者だったジャーナリストは、リベラルを代表する週刊誌への9月の寄稿 で、台湾に共感する理由について「民主主義国家に生きる人間の1人として、ごくごく素直に、選挙を通じて表明される台湾の民意を尊重してほしいと考えているだけ」と書く。

彼も多くの記事で民進党の蔡政権支持を公言しているが、日本と台湾を「同じ民主主義」という認識でくくるのはいかがなものか。日本の「民主主義」の中身がいかにいい加減か。

台湾有事など米中対立の中で、バイデン氏は「民主か、専制か」の二元論を提起しているが、世界的にみれば今問われているのはアメリカが主張する「民主」の内実の怪しさであり、日本と台湾を「民主」の共通項でくくる思考には筆者は同意できない。

「ネオ台湾派」の主張の何が問題なのか、いくつか論点を絞ろう。①台湾民主化を絶対視する反面、台湾問題が冷戦構造の中で、アメリカによって生み出された国際政治の是非には判断を停止している、②「サンモニ」の論者は「台湾有事」があたかも軍拡を進める中国によって作り出されたかのように一面的に主張する。

しかし彼らは「台湾有事」とは、バイデン政権や岸田政権が「一つの中国」の骨抜きを狙い、中国を意図的に挑発して「作られた危機」である側面には目を向けない、③民主化の絶対視によって民意が国家間の共同声明や協定・条約に勝ると認識していないか。これらを無視すれば米中関係も日中関係も成り立たなくなる。

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