台湾初の国産潜水艦建造で吹き出た情報漏洩疑惑 「台湾はパートナーになれるのか?」日米で疑問噴出

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実は、2022年6月7日、韓国メディアは同国海軍の最新鋭潜水艦の図面が、台船側に流出したと伝えていた。当時台船は、潜水艦は独自に設計しており、いかなる国の図面も採用していないと反論する声明を発表していた。台湾当局の捜査が注目される。

2024年1月の総統選にも影響

3つ目は、総統選への影響である。連日、メディアからの集中砲火に遭っている馬委員は、台湾中南部・南投選出の国民党籍委員である。2009年から4期連続当選しているベテラン委員であり、昨今選挙で厳しい状況にある同党にとって、確実に票が読める委員の一人と言われている。

それを証明するかのように、国民党内で戦闘藍(戦う国民党)を標榜する中国との統一に前向きで、民進党との対決を鮮明にする急進派の党員や委員33人が、馬委員の全面擁護を表明。プロジェクト座長の黄氏こそが機密漏洩の疑いがあり、特捜部を設置して徹底捜査を要求するコメントを発表したのだった。

しかし、現在のところ朱立倫主席はとくに目立ったコメントを発表していない。

それもそのはず。国民党候補の侯友宜氏は世論調査で、民衆党の柯文哲氏に負けているとされ、現在、国民党と民衆党の候補一本化の協議の真っ最中にあるとされている。しかしプロジェクト座長の黄曙光氏は、黄珊珊現民衆党代表の実兄だったのである。馬委員らの批判に対し、黄珊珊代表は真っ先に兄の無実と国家への忠誠を表明していたのだった。協議にまったく影響がないとは言えないだろう。

民進党候補の頼清徳副総統が世論調査で大きくリードする中、国民党の将来をも考えなければならない朱主席にとっては、総統選で負けても統一地方選で大崩れしなければいいのかもしれない。しかし、国の安全保障にかかわる重大な問題において、態度を明らかにできないのでは、有権者に弱いリーダー、党をまとめきれないイメージを与えかねず、結果的に地方選でも大きく敗退する可能性がある。

イスラエルとハマスの戦闘が始まった今、アメリカは中東に再び戦力を大きく振り分ける状況にある。それに伴い、アメリカは日本や台湾に対し、中国からの脅威に自ら立ち向かえるよう促していくのは十分に想定できるシナリオである。

台湾の潜水艦は中国に対し大きな抑止力となるのは間違いない。しかし、台湾はアメリカや日本などの友好国が十分に信頼できるパートナーなのか。今回の事件に注目している国々は多いだろう。

高橋 正成 ジャーナリスト

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たかはし まさしげ

特に台湾を中心に、時事問題をはじめ、文化、社会など複合的な視座から問題を考えるのを得意とする。現役の翻訳通訳者(中国語)。

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