「脂の乗った100円サンマ」が戻らない根本的原因 不漁のままなのに「豊漁」と錯覚してしまうワケ

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北海道のニシンの例で考えてみましょう。かつて1920年前後には50万トン以上漁獲されていましたが、それが1950年代後半に激減、2011~2015年頃には5000トン程度になっていました。

北海道のニシン(写真:筆者提供)

しかし2018年になると1万トンを越えて、2022年には2万トンとなっています。このため「ニシン復活」とか、資源評価が「高・増加」などと報道されたり、評価されたりしています。しかし次の漁獲量推移のグラフのとおり、数十年単位で見ると復活という状況には程遠いのです。

ニシンの漁獲量推移(出所)水産研究・教育機構

ニシンは多獲性魚種(一度に大量に漁獲される魚類)です。本来なら、かつての北海道での漁がそうであったように、1万トン単位ではなく、年間10万トン単位で漁獲される魚なのです。実際には100分の1(5000トン)が100分の4(2万トン)になっただけですので、とても中長期的に見て「豊漁」などとは言えないのです。

今年のサンマ漁がたとえ昨年の倍であっても、とても豊漁とは言えないことはご説明しました。かつてのように1尾100円前後で丸々太ったサンマが売り場に並んでいないのは、実感されているとおりです。供給が減ったままなので、価格は下がらないのです。

芽が出てもすぐ刈り取らせてはいけない

サンマが、少しでも増えていたのであれば、本来であればその資源を「豊漁」などといって漁獲してしまうのではなく、再び資源量が増えるように漁獲量を厳しく制限するべきなのです。しかしながら、後述する資源管理のためのTAC(漁獲可能量)が大きすぎて機能していません。少し増えているのであれば、将来のために漁獲制限を強化すべきなのです。

水産資源は環境や規制などの影響で一時的に増えることがあります。これを卓越級群と呼びます。その貴重な資源を増やしていけば資源回復に大きくつながります。たとえ卓越級群が発生しても、日本ではまだ数量管理による資源管理の仕組みができていません。

このため資源回復の千載一遇のチャンスをつぶしてしまうことがよく起きてしまいます。次の資源回復の機会が来るまでには、数十年かかることがありますし、来ないこともあります。

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