公立校で常態化「非正規の教員」理不尽な働き方 「先生が3学期にいなかったことが悲しかった」

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臨時的任用教員はもうこりごりだというトモキさん。今後は時給制で授業だけを受け持つ時間講師として働くつもりだ。月収は20万円ほどで、予定どおり勤務できたとしても年収ダウンは避けられない。実家暮らしとはいえ「将来がとても不安です」。

トモキさんは現在の学校現場について「ぎりぎりの正規教員で回している。(その結果)非正規教員に頼りすぎていると感じました」と振り返る。

臨時的任用教員は常勤講師、時間講師は非常勤講師とも呼ばれるが、文部科学省が2022年に公表した「『教師不足』に関する実態調査」によると、全国の公立小学校の臨時的任用教員が全体に占める割合は11.06%(中学校は10.9%)、時間講師は小学校で1.56%(中学校も1.64%)だった(時間講師のデータは常勤換算した人数を基に算出)。正規教員と同じ激務をこなす臨時的任用教員が1割超もいるということだ。また、定年退職後の「再任用教員」なども含めると、非正規率が20%近い自治体もあるという。

「非正規雇用VS正規雇用」をつくり出した政策

この割合はじわじわと増え続けており、その傾向を決定づけたのは2000年代なかばの小泉純一郎内閣による「三位一体改革」である。これにより義務教育費国庫負担制度における国の負担率が2分の1から3分の1に減った。以降、財源に余裕のなくなった地方自治体は正規教員の採用を抑制し、代わりに非正規教員を「雇用の調整弁」として利用するようになった。

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東京都の臨時的任用教員の給与水準は正規教員とほぼ同じとされるが、財政が厳しい自治体の中には正規教員の6割というケースもある。当時は「地方分権」「財政再建」「三方一両損」など美辞麗句で語られた“改革”だが、結局は疲弊したのは地方ばかり。教育にお金をかけられない自治体を増やしただけ、というのが私の持論である。

人手に余裕がないのを、細切れの非正規雇用労働者で穴埋めしようとする職場では、官民問わず人間関係は荒み、「非正規雇用VS正規雇用」といった不毛な対立が起きがちだというのは長年労働問題を取材してきての実感だ。トモキさんが渡り歩いた学校でも、臨時的任用教員を一段低く見る空気があったのではないか。ただこれは教員個人というより、そうした状況をつくり出した政策や制度の問題である。

教員不足や、それがもたらす教員のメンタル不調の問題が指摘されて久しい。解決のためには、正規教員の数を増やす以外に方法はないだろう。

トモキさんが教え子から送られた手紙。信頼していた先生がある日突然いなくなることで、子どもたちは大人が想像する以上に大きなショックを受けている(筆者撮影)

臨時的任用教員としては理不尽な経験ばかりだったが、子どもたちとの出会いは財産だと、トモキさんはいう。中でも冒頭で紹介した中学校の教え子たちが卒業式前にトモキさんあてに送ってくれた手紙は宝物だ。最後は手紙につづられた子どもたちの言葉で結ぼう。

「先生が3学期にはいなくなると聞いたときはとても悲しかったし、少し怒りたくなりました」「進路について相談をしたかったので、いなくなってしまってさみしかったです」「先生が3学期の初日にいなかったことがとても悲しかったです」「志望校に受かったのは先生のおかげ。本当は直接お礼を伝えたかったです」

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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