日本が欧米に比べて「インフレ耐性」が低い理由 インフレ下で家計の負担が大きくなる構造

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そうしたインフレ時代はどうしても、所得格差が生じる。家計自身も事業利益の恩恵をもっと積極的に得られるようにしたほうがよい。副業として自分で事業を手がけるのは、その一例だ。できれば、起業して自分で経営者になることがより望ましい。1人で行うのならば、自営業という選択である。

インフレ期には所得格差が広がると言われる。インフレの中で新しく富を得て高所得層に成り上がる人が増えて、「上向きの作用」が働くからだ。逆に、2000年以降のデフレ経済は、中堅所得層が高齢化も手伝って、日本の家計を低所得化させていく。大学を出ても正社員になれないことが格差を作った。

起業率の差が富のクリエーションの差に

以前から、欧米では起業の割合が高く、企業間の新陳代謝が働き、日本はそうした流れと一線を画していることが指摘されてきた。主要国の起業率に差があり、常に日本は低い状況にある。このことは、日本で富のクリエーションが弱まっていることを示している。

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家計の統計中で高所得層は、個人事業主、自営業、法人経営者が含まれる。彼らは、事業 収益の恩恵を享受しやすい。先に、株主には実業階級の恩恵を分配されると述べた。株主以上に、事業のオーナーには恩恵が厚い。

こうした事業からの利益は、資本の利益そのものである。企業が得た付加価値は、労働分配される以外に、資本分配される。インフレ期には、資本の力がより強まって、事業者に利益が集まっていく。

日本は、長いデフレ時代に、資本の利益を享受できる人たちが逆風にさらされた。個人事とうた業主や自営業者はかなり淘汰された。しかし、今後はインフレ期に変わることで、彼らは徐々に復活していくだろう。

欧米のほうが、起業志向が強く、能力のある個人が資本の利益を追求することが多い。日本にいる中国人や欧米人を見ても、事業を自分で始めようという志向が日本人よりも遥かに高い。そうした気質の違いも、国ごとのインフレ抵抗力の差になっていると考えられる。

熊野 英生 第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

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くまの・ひでお

1967年山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒。日本銀行などを経て現職。『本当はどうなの? 日本経済』など著書多数。

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