岸田首相「自前人事」を封じた麻生氏の"3頭体制" 政権安定優先で"茂木外し"不発の舞台裏

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その一方で、過去最多タイの5人の女性閣僚の中で注目されたのは、初入閣の加藤、自見両氏。「岸田流の大抜擢人事」(自民幹部)とされるが。特に、加藤氏は故加藤紘一氏の三女で、「現在の谷垣グループと岸田派の接着剤ともなる人物」(岸田派幹部)とみられている。このため、「近い将来の岸田派と谷垣グループの再合流を狙った人事」(自民長老)との憶測も広がる。

木原氏退任は「美談仕立て」のお芝居

そうした中、多くの政界関係者が首をかしげたのが林芳正外相の退任。G20外相会議の議長役でもあり、人事直前にウクライナを電撃訪問しゼレンスキー大統領と会談したことから「誰もが外相留任と思っていた」(外務省幹部)からだ。

ただ、岸田氏の最側近によると「林氏はかねて次の人事で外相をやめて党の役職につきたいと訴え、岸田首相もこれを受け入れていた」という。このため岸田首相は「各国外相も集結する国連総会の前に外相を交代させることに悩み、それが国連総会での訪米後の人事の検討につながった」(官邸筋)とされるが、その間の人事工作の混乱回避のため、突然の外相交代に踏み切ったのが「真相」とされる。岸田首相は13日夜の記者会見でも踏み込んだ言及を避けた。

さらに、岸田首相の最側近の官房副長官として官邸の切り回し役を務めてきた木原誠司氏の退任も永田町の大きな話題となった。人事直前に一部大手紙が「木原氏留任」を報じたこともあり、人事の結果が注目されたが、「本人が固辞した」との理由で退任が決まった。

ただ、岸田首相と極めて親しい政界関係者によると「実は8月初めに退任が決まっていたが、岸田首相と木原氏自身が周囲にもそれを隠した結果」とされる。同関係者は「岸田首相は留任させようとしたのに本人が『内閣に迷惑をかける』という理由で断るという“美談”にして、木原氏のイメージダウンを防いだお芝居」と苦笑交じりに解説した。

こうしたさまざまな曲折を経ての岸田新体制が13日夜に発足。これを受けて岸田首相午後7時からのNHKニュースに合わせて官邸で記者会見し、まず新内閣について「変化を力にする内閣」と名付けたうえで、小渕氏の選対委員長起用については「選挙の顔として期待している」と述べた。

さらに最重要課題とした景気対策について「大胆な経済対策を実行する」としたうえで「月内に閣僚に柱立ての指示をし、来月中に取りまとめる」との考えを表明したが、補正予算の国会提出時期については明言しなかった。

政界では早くも「岸田首相は補正成立直後に解散を断行する」(自民幹部)ことを前提に11月14日公示―同26日投開票説も流れている。公示、投開票日との「大安」であることが真実味につながっているが、自民党内では「解散風を吹かすことで政局の主導権を維持したい岸田流の観測気球」との冷静な見方が多いのが実態だ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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