「VIVANT」もう1つの諜報機関、外事警察官の実態 別班と双璧を成す「組織の正体」を監修者が語る

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「警視庁公安部外事一課というセクションに所属していたのですが、あるときアフリカのある国で情報網を築くよう、極秘指令を受けました。身分は“警視庁警察官”から“外務省在外公館警備対策官”となり、外交官の身分で外事警察官として現地に入り、日本へのテロなどの脅威に関する情報収集をすることを命ぜられたのです」

公安の外事警察官は、実際どのような活動をしているのだろうか。勝丸さんは「日本へのテロ、そして日本の国益を損なうような情報をとにかく集めること」を指示されたという。

「私は2000年代にアフリカに派遣されたのですが、情報収集のため、まずは現地国の情報機関の人間との接触を続けました。当時は現地国の情報機関内で情報漏洩事案があり、こちらが接触を呼びかけても相手がかなり疑心暗鬼になっていた。ファーストコンタクトに苦労しました。こちらが日本警察の外事警察出身の外交官であることをしっかりと伝え、信用してもらいました」

勝丸さんは警察官から外交官に身分を変えて任務に就いていたが、外事警察官でありながら外交官として諜報活動することのメリットは「大きかった」と明かす。

「1つは不逮捕特権があるということ。もう1つは外交機密費という、いわゆる活動費を十分に使うことができたことです」

自身や家族の身辺警護も1人でこなす

海外で諜報活動をする際には、日本国内での公安のオペレーションのようにチームで動くことができない。つまり、自身や家族の身辺警護も含めてたった1人でオペレーションのすべてをこなす必要がある。

「私は家族を連れて現地に赴任したので、自身はもちろん家族に危害が及ばないよう、細心の注意を払っていました。現地では外交ナンバーの私用車を使っていたので、ときどきマークされていました」

車両で移動するときはかなり神経を使っていたという。

あるとき、勝丸さんが私用車で移動していると、後ろの車両が明らかに尾行している様子を見せていた。そこである“点検”をしてみたそうだ。黄色信号で停まる素振りをしつつ、直進する。すると案の定、背後の車も直進してきた。

勝丸さんはここで特殊運転のテクニックを使った。左右の安全を確認し「ジャックナイフ」と呼ばれる運転技法を用いて急ターンをしたのだ。そこから一気に反対車線へ移り、背後の車両を振り切ったという。「家までつけてこられたらアウトですから、絶対に巻かなくてはいけないのです」。

外事警察官にはこうした特殊運転技術を必ず学ぶ過程があり、実際のテストコースを使用して厳しい訓練が行われるのだという。

外事警察官は異国の地で、さまざまなリスクに対応しながら情報収集を進めていく。ドラマで役所広司さんが演じるノゴーン・ベキこと乃木卓も、警視庁の外事警察官として描かれている。

農業視察団の一員という身分で、バルカ共和国に妻の明美と赴任し、明美は息子の憂助を現地で出産した。農業視察のオモテの活動のウラで、当時、天然資源を巡り深刻化していた民族間の争いに関する情報収集を、外事警察官として行っていた。

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