対話型AI、使う人が知るべき「著作権侵害の注意点」 テキストの入力行為でも問題が生じる可能性

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これに関しては画像生成AIの場合と同様に、「創作意図」と「創作的寄与」が問題となります。

例えば、対話型AIの処理性能がさらに向上したことによって、「汎用的な勤怠管理システムのコードをすべて書いてください」と入力し、その出力をそのままソフトウェアとして商品化することすらできるようになった場合、ほとんどユーザーによる「創作的寄与」が認められないことから、そのソフトウェアは著作物ではなく、パブリック・ドメインとなる可能性があります。

その場合、そのソフトウェアを第三者が無断で利用しても、それに対する差し止めをはじめとする著作権法上の保護を受けることはできません。

なお対話型AIの提供事業者が、ユーザーとのサービス提供規約において、その生成テキストの権利を提供事業者が留保すると定めていた場合は、ユーザーはあらかじめ提供事業者からの許諾を得なければなりません(OpenAI社は、2023年6月現在では、ChatGPTが生成したコンテンツに関する全権利は、ユーザーに移転するとしています)。

またBardのようにウェブをブラウジングして出典とともに出力を表示する対話型AIの場合は、通常のテキストと同じように、その出典元のライセンスにも従う必要があります。

対話型AIへのテキストの入力行為と著作権

対話型AIに著作物を入力する行為自体は、それが私的利用にとどまる限りは、著作権法上の問題は生じません。しかし企業内で利用する場合など、私的利用と言えないような場合、入力行為が一種の複製行為でもあることから、「複製権」の侵害とならないかが問題となりえます。

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この問題に関して、日本ディープラーニング協会が公開した「生成AIの利用ガイドライン」は、画像生成AIにおいても触れた著作権法第30条の4に定める「情報解析」その他の「非享受利用」に当たり、ただちに著作権侵害とはならないとの見解を示しています。

私見では、対話型AIへの入力行為は、それによる対話型AIの出力が作り出す一連の会話との関連でなされており、総体としてみて、必ずしも「非享受利用」には当たらないのではないかとも思われますが、現行法から入力行為の適法性の法的根拠を引き出すとすれば、これが最も無難な解釈ではあるでしょう。

したがって、入力行為自体が著作権侵害に当たらないかどうかについては、いまだ確立した法解釈はありませんが、あえて厳格を期すとすれば、著作物についても、私的利用や研究目的の場合などを除き、それをそのまま入力するのではなく、マスキングを施したり、あらかじめ表現を言い換えてから入力したりするなどの対策を行うことが望ましいでしょう。

佐藤 洸一 メル行政書士事務所代表

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さとう こういち / Kouichi Sato

東京都行政書士会所属。東京大学法学部第一類卒。行政書士として、 国際業務及び企業法務を中心とする業務の他、生成AIと法に関わる実務の最前線において、AIイラスト投稿掲示板「chichi-pui」をはじめとする新興AIサービスの企業法務サポートなども手掛けている。

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