搭乗する「人型巨大ロボ」登場、開発者支えた想い 1台4億円で受注生産、狙うは海外の超富裕層

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これまでにフィギュアなどの立体物を手がけたことはあったが、〝本物〟を考えるのは当然ながら初めて。可動域などについて、設計担当の石井さんらと実現可能性を確認しながら、手探りでの造形が続いた。50回以上に及んだという修正作業の中でも、人型へのこだわりは捨てなかった。

「会議では『手は5本指でなくてもいいのでは』という意見も出ましたが、『そこは絶対に5本指!』と主張しました。実際に動かすものなので、置物っぽくならないように心がけました。完成したアーカックスはイメージ通りの完璧な出来映え。感動しました」(堀田さん)

デザインを担当した堀田智紀さんはSNSの投稿がきっかけで開発メンバーに加わった(記者撮影 ©ツバメインダストリ )

吉田さんが立てた事業計画を基に資金を募り、鳥取県で転職サービスや不動産売買のグループ企業を展開する「ヤマタホールディングス」などが出資した。産業機械向け精密機器大手のナブテスコからの技術支援も受けている。10月15日までスポンサー企業を募集しており、300万~3000万円の協賛金を支払うことで、金額に応じた大きさの企業ロゴをアーカックスの外装に掲載することができる。

とはいえ、4億円もする「巨大なおもちゃ」が本当に売れるのか。吉田さんは「現時点での受注状況は明かせない」としつつ、「主なターゲットは海外の超富裕層。ハイパーカーやクルーザーを買うような人たちは、アーカックスにも興味を持つはず」と自信を見せる。

同社によると、1台100万ドル以上の超高性能車は世界で年間数千台が売れているものの、購入者のほとんどがナンバーを取得せずにガレージで眠らせているという。こうしたコレクション需要に割り込み、「自分専用ロボットの所有と搭乗」という近未来的な体験に価値を感じてもらおうという戦略を立てた。

受注生産のため、1~1年半の納期を要するが、カラーリングやデザインの変更も顧客のリクエストに応じる方針。〝ガンダム〟に登場するエースパイロット「シャア」が自身の乗機を真っ赤に染め上げていたように、唯一無二の専用機を生み出せるのも魅力だ。

人型巨大ロボには日本文化が凝縮されている

吉田さんはこの事業に懸ける思いを、次のように語る。

「アーカックスにはさまざまな分野の工業技術が用いられているうえ、アニメや漫画の要素も取り入れていて、まさに日本文化が凝縮されています。一方、日本は元々ものづくりが得意な国なのに、今は衰退していると言われる。ユニークな商品を売り出すことで面白さを感じてもらい、その道に進むような子どもや学生を増やしたいです」

手は5本指に。「本物感」にこだわった(記者撮影 ©ツバメインダストリ)

今年10月には東京ビッグサイトで開かれる「ジャパンモビリティショー2023」に出展し、アーカックスを初めて一般向けにも公開する。一方、試乗会の予定は一切ない。「実際に買った人だけが乗れるというステータス感を大切にしたい」と石井さんは語る。

購入者は操縦のための訓練をマンツーマンで受けられ、修了すると同社公認の「パイロット・ライセンス」が授与されるという。

今後の展開にも余念がない。アニメ化やプラモデル化といったキャラクターの2次利用や、リース事業などでの収益化も視野に入れる。さらに「マクロス」や「アクエリオン」などの人気アニメシリーズで有名なデザイナー、河森正治さんとコラボレーションし、河森さんがデザインした機体の製品化プロジェクトが始動。11月ごろに詳細が発表される予定だ。

AR技術を利用して、人が乗ったアーカックス同士でフィールドを走り回り、サバイバルゲームのように模擬戦闘を楽しめるサービスの展開も構想している。熱きロマンチストたちの挑戦が、次はどんな夢を叶えてくれるのだろうか。

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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