ポーランド「鉄道撮影禁止法」が巻き起こす波紋 軍事機密は重要だが社会主義時代の苦い記憶も

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現在は衛星写真やドローンなどで撮影した画像を解析することによって、こうした貨物列車やトラックの車列などの位置情報は丸裸の状態であろうから、鉄道ファンが写真を何枚か撮影したからといって、それが戦況に大きな影響を与えることはなさそうだ。21世紀の戦争は情報戦と言われているが、撮影した画像データをファンがSNSなどにリアルタイムで投稿しない限り、脅威になるものではないだろう。

ポーランド国鉄 客車列車
ポーランド国鉄の列車。駅ホーム先端からの撮影はできなくなるかもしれない(撮影:橋爪智之)
ポーランド トラム
法の拡大解釈次第では市街地でのトラム撮影も難しくなるかもしれない(撮影:橋爪智之)

Świat Koleiは頭ごなしに撮影の法的規制を否定しているわけではない。同誌が懸念を表明しているのは、一般に公開されている区域・場所における鉄道や、そのほかのインフラなどの撮影を禁止するという問題に対してのみであり、発電所や燃料基地などといった戦略的に重要な施設の撮影規制に反対を表明するものではないと説明している。同誌はこの訴えに政治的な意図はなく、明らかに行き過ぎと思われる法的規制についてのみに言及していることを強調している。

鉄道雑誌が猛反発する理由

同誌の主張するとおり、明確な規定を設けない撮影禁止法は、拡大解釈することで一般国民の生活に大きな影響を与えることにつながりかねない。前述の通り、一般市民が駅でスマートフォンのカメラを触っていただけで拘束することも可能になる恐れがあるからだ。

一方、同誌は撮影への法的規制に反対しつつ、鉄道ファンに対してはとくに貨物列車の撮影などには注意を払い、国家の安全や軍事機密を少しでも脅かすような資料(写真や動画)については公表することがないよう、強く自制を促している。政府や世論を敵に回せば鉄道ファンの立場は悪くなる一方である。自分たちの立場を守るためにも、疑わしい行動によってそのような刺激を与えないことが重要と考えている。

しかし、言ってしまえば「たかが鉄道写真」、ポーランドにとって今は準戦時体制であることを考えれば、写真撮影を禁止することはやむをえないと考えてもおかしくない。なぜ同誌はかたくなに拒否の姿勢を貫いているのだろうか。

プシェミシル駅 ウクライナ避難民
ウクライナ国境の街、プシェミシル駅に着いたウクライナからの避難民たち(撮影:橋爪智之)
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